急いで着替え終わると、出てきた私を不思議そうな顔で見た藤原に思い切りあっかんべーをして、ダッシュで教室に戻り、制服のままで戻ってきた私に驚いている加茂くんに接客出来ない事をとりあえず謝って裏方の仕事を再開した。



「ごめんね、実は借りた洋服破けちゃったの」


文化祭も終わり、その片付けをしだして一段落つくと、私は加茂君の側に行って紙袋を渡した。


「え?どこが破けたの?」


「背中のとこ。かなりビリビリと」


私は紙袋から出して破けた部分を加茂君に見せた。

だが加茂君はじっとそれを見て黙っていたが、やがて口を開いた。


「これ、どこで破いたの?」


「英語教師室借りててそこで」


「一人だったの?」


「最初は一人で着替えてて、着替え終わってからちょうど藤原が来たんだけど、私が部屋を出ようと動いた時、後ろにあった棚の何かにひっかけちゃったみたいで」


加茂君はメイド服を手にとって、じっと切れた部分を見ていたかと思うと、へーふーん、そっかあ~と独り言を言い出した。


「あの、弁償するよ、やっぱり高い?」


不安げに聞いた私に、加茂君が笑顔で答えた。


「大丈夫大丈夫。

弁償は藤原先生にお願いするから」


「え?なんで?」


「んー?管理責任?」


首をかしげながら可愛くいう加茂君に、私も首をかしげた。







後日の月曜日。




「葛木先生」


いつもの藤原睡眠タイムを横目に、私はお菓子をテーブルに用意し始めた葛木先生に近づき小さな声で声をかけた。

それを先生が不思議そうにしながら顔を近づけてくれる。


「あの、文化祭の写真なんですけど」


「はい」


「私の、その・・・・・・・メイド姿の写真なんですが」


「え?」


素で驚いた声に私が驚いた。


「あれ?藤原から送られてませんか?

なんか文化祭が葛木先生のおかげできちんと出来た証に見せた方が良いとかなんとか言って写真撮られたんですけど・・・・・・」


戸惑いながら説明すると、先生は少し考えたような顔をした後、あぁ!と小さく手を打った。


「はい、思い出しました。

私も手伝ったかいがありました」


にこにこと返されて私はホッとした。


「先生が色々教えてくれたお菓子がお客さんにとても好評でだったんです。

おかげで喫茶も大盛況でした。

それと、先生にはとっても迷惑かけてしまってすみません。

私の写真でお礼になるとは思わないですけど・・・・・・」


ありがとうございました、と頭を下げると、ふわ、と突然頭を撫でられ、葛木先生の綺麗な顔がすぐ側にあり、私の心臓がばくんとした。

なんだかんだ言ったって、好きだった人。

こんな事をされると凄く恥ずかしい。


「いえいえ、かなり忙しいようでしたし。

頑張りましたね」


ふわふわと撫でられ、自分の顔がふにゃりと崩れるのがわかった。


すると突然、バサッ!という大きな音が背後からして、私は、ひゃ!という声をあげて振り向いた。

そこにはソファーからブランケットを蹴っ飛ばし上半身を起こした藤原が、ぼーっとした顔でこちらを見ていた。


「えっと、まだ1時間経ってないよ?」


戸惑い気味に言うと、隣の葛木先生が私に顔を背けている。


「もう少し寝てたら?」


「・・・・・・喉が乾いた」


睨んでいるかのような半目で藤原がそう言うと、隣の葛木先生が立ち上がろうとした。


「東雲、紅茶」


単語だけぶっきらぼうに呟いた藤原を、私はぽかんと見た。

何故か葛木先生は私に顔を背けたまま、身体を丸めて肩を震わせている。

そして未だ無言でぼーっとこちらを見ている藤原に、私はため息をついた。

まるで母親にお茶でもお願いしているかのようだ。

でも、こういう風に藤原が我が儘を言うのが私に安心しきっている証拠に思えて、私は少しだけ笑みを浮かべてしまう。


「はいはい。

用意してあげるからもう少し横になってなさい」


お茶を用意しようと立ち上がると、未だ葛木先生は口に手を当て肩を震わせている。

私はその理由に首をかしげた。

葛木先生が笑った理由を私が知ったのは、ずっとずっと先のこと。