「じゃ、じゃぁ」
慌てて残りの荷物を紙袋につめて、急ぎ足で部屋を出ようとした。
「おい」
ドアの前に居る藤原を無視してそろっとドアに手を伸ばしたら、真横から声がした。
私がおどおどと見上げると、何故か藤原が笑みを浮かべている。
私はその意図が読めずに途惑っていると、おもむろにポケットからスマートフォンを取り出した。
「一枚写真撮ってやる」
「はぁぁああああ???」
「誠太郎に見せてやるよ」
「や、やだよ!無理!!」
なんでここで葛木先生が出てくるのか。
そもそも何で撮影しないといけないのか。
第一そんなもの見せられたって先生だって困ると思うし、恥ずかしい。
「良いのか?誠太郎はお前の依頼を受けて、その出し物を成功させるために、わざわざ夜遅くまでお前のクラスで作れそうなレシピ考えて、手ほどきしたんだぞ?
おかげで誠太郎は菓子作り上手いってどこのクラスからも依頼されて、そのせいで教師の仕事が終わらなくなって何日も残業してたんだぞ?
良いのか?自分が頼んだものがこんなにもきちんとやれてますって報告しなくて」
真面目な顔で切々と言われ、私の頭の中がぐるぐるする。
確かに、私がお願いした以上の事を丁寧にしてもらったし、そのせいで他のクラスにも引っ張りだこだったし、それで教師の仕事を残業させていたなんて、どう考えても私のせいだ。
きっと陰陽師の仕事にも影響しただろう。
どうしよう、私の我が儘で先生にとても迷惑をかけてしまった。
それは確かにちゃんと先生に報告しないといけない気がする。
「・・・・・・えっと、どうすれば葛木先生に良い報告できる?」
「だから写真撮ってやるって」
「や、でも」
「きっと俺だけ見たっていうと、私も東雲さんの頑張ってる姿が見たかった、とか言うぞ?
良いのか?あいつを除け者にして」
真顔でそう言われ、なんだか写真を見せないと先生に凄く失礼な気がしてしまった。
「じゃ、じゃあ一枚だけ・・・・・・」
私は抵抗を諦めがくりと項垂れると、足取りも重く部屋の奥に行き紙袋を下ろし、おずおずと藤原に向かい合うように立つ。
正直、どんな感じで立てば良いのかさっぱりわからない。
「ほら、笑顔笑顔」
「無理!恥ずかしい!」
恥ずかしさで自分の顔が熱くなっているのがわかる。
あーもう、間違いなく私をからかって遊んでいるんだ、藤原のヤツは。
どうせ子供の私じゃ、何にもひっかからないでしょうよ!
悔しくて少し上目使いで睨みながら藤原の方を見たら、パシャパシャパシャと凄い勢いで音がした。
「い、一枚だけでは?」
「あー連写になってたな」
特に興味なさそうにスマートフォンを確認した藤原の態度に腹が立つ。
「じゃぁ一番まともな写真だけ先生に見せてよね!
私もう行かないと!」
恥ずかしさと腹立たしさで早く部屋を出ようと下に置いてあった荷物を取り、それを持って勢いよく振り向いたその時、何か服にぐい、と引っかかった感じがしたと同時にビリビリビリ!という音がした。
「・・・・・・」
背中に違和感がある。涼しい。
すると、ひょい、と藤原が私の背中に回った。
「背中、破けてるけどいいのか?ガムテ貸すか?」
私の背中が見えててもそういう反応なんだ・・・・・・。
怒りと羞恥心が怒濤のように押し寄せ、身体がわなわなと震えてきた。
「あー!もう着替える!
着替えるから藤原は外で門番やっててよ!」
ガムテを既に手に持ってきょとんとした顔をしている藤原の背中をぐいぐいと押しながら外に思い切り押し出すと、私はドアを勢いよく閉めた。
「もう帰りたい・・・・・・」
私は両手で顔を隠し、泣きそうになりながら呟いた。