文化祭当日。
朝から目の回るような忙しさだった。
それが昼を過ぎてもむしろ悪化するほどで、笑顔を振りまく加茂君も、頬が痛いと嘆きだしていた。
「まさかこんなに人がくるなんて!」
「なんでメイド減ってるの?!」
「部の出し物とかで急に出払ったんだよ!」
お菓子は前もって用意していたおかげで、裏方のスタッフは最低限で動けたのに対し、メイドの方が他の用事でいなくなる自体が多発し、クラスでは混乱が起きていた。
裏でばたばたと紅茶を準備していたら、加茂君が飛び込んできた。
「ゆいちゃんヘルプ!メイド担当して!さばききれない!」
「えっ?!」
「これ洋服ね!
僕の趣味で見繕った品だけど一応持ってきておいて良かった-!
じゃぁ用意出来たら接客担当してね!」
そういって紙袋を強引に私に渡すと、ウィンクして急いでフロアに戻ってしまった。
裏方のみんながフロア手伝ってあげてというので、私は仕方なく紙袋をもって教室を出た。
確かに教室前には大行列が出来ている。
女性もかなりいるのだが、これはおそらく加茂君の影響が大なんじゃないだろうか。
さて、着替えようと思ったら、どこも色々な事で仕えず悩んでいたら、とある場所を思いだした。
「失礼しまーす」
なれた英語教師室。
入ってみたら藤原はいない。
「ま、手早くすればいいか」
私は部屋に内側から鍵をかけると、紙袋から洋服を取り出す。
広げてみて私は固まった。
「・・・・・・」
これ、他のみんなとはあまりに衣装が違う気がする。
なんというか、セクシーな感じがするのだ。
スカートもかなり短い。
固まっていたが、教室では沢山お客さんが並んでいるのを思いだし、私は覚悟を決めて着替えだした。
「これで良いのかな・・・・・・」
きっちり用意されていたものを着て、窓の前に立ってみる。
部屋に鏡が無いのと、どうせここは階も高いので窓に映る姿で確認した。
窓なので上半身くらいしかチェック出来ないけれど。
それにしても、初めて履く黒のニーハイソックスと、ふわふわと広がる短いスカートに落ち着かない。
白のブラウスの胸元はそこだけ生地が違い、その胸の下にギャザーがあって、胸の形が強調されている。
両手首にはシュシュのようなリボンがセットされていて、髪の毛にはフリルのカチューシャ。
どうみても見事なくらい、ただのコスプレメイドにしか見えなかった。
藤原があんな事を言ったのも頷けてしまう。
「私も可愛かったら良かったのに」
こういう可愛い服が似合う可愛い子だったら、どんなに良かっただろう。
そうしたら、藤原も少しはどきりとしてくれるかも知れない。
私はため息をつきつつ、紙袋に制服を詰めようとかがんだ。
ガチャ。
ドアのカギが開くと同時に、勢いよくドアが開いた。
私はその音に慌てて振り向く。
そこには鍵を持って呆然と立っている藤原が居た。
「「・・・・・・」」
目を見開いて固まっている相手を見て、ぼん!と顔に熱が上がった。
「あ、いや、急に頼まれて。
あ、ごめん、着替えるとこなくて・・・・・・」
混乱しながら一気に話す。
でも藤原は無言で入り口に立ったままだった。
急に廊下から男子達の騒がしい声がこの部屋の方に近づいているのに気がつき、私は思わず藤原の背後に視線を向ける。
すると藤原は一歩中に入り、後ろ手でドアを閉めてしまった。
突然部屋に二人きりになり、私の足ががくがくと震えてくる。
もう恥ずかしくて死にそうだ。
だってこんな姿、きっと何か言われるに違いない。
恥ずかしいし、馬鹿にされる前に一刻も早くこの部屋から出なきゃと、どんどん焦ってくる。