「は?メイド喫茶?」


「うん、加茂君の熱烈な後押しで決定しちゃった」


ここは英語教師室という名の藤原の自室。

私はここでいつもの用事と質問を終え、穏やかなティータイムになっていた。

文化祭の出し物が私のクラスはメイド喫茶になったと伝えると、藤原はぽかんとした顔で聞き返した。


「東雲さんもメイドになるんですか?」


紅茶を私のカップにつぎ足しながら、 葛木先生が尋ねる。


「いえいえ!私は裏方で調理スタッフです。

それで、葛木先生に喫茶で出すお菓子のレクチャーをお願い出来ないかと」


「菓子作りのレクチャーですか?

そういう事を教えたことは無いのですが・・・・・・えぇ、私で良ければお手伝いしますよ」


先生は少し悩んだ後、最後はにっこりと返され、私は両手をあげて喜んだ。


「まぁそうだよな、お前がメイドってのはなぁ」


ソファーで足を組みながらスコーンを食べていた藤原の一言が突然飛んできてイラッとする。


「藤原に言われると凄くむかつく」


「俺は客の立場になって冷静な意見をしたまでだ」


「・・・・・・葛木先生、毒入りスコーンって今日無いんですか?」


「申し訳ありません。本日は持ち合わせが無くて」


「じゃぁ次回お願いします」


「承りました」


最後は笑顔で葛木先生にお願いすると、これまた美しい笑顔で返された。


「二人で俺を毒殺する計画立てるのやめてくれ」


本気でびくついた様な顔をして、藤原はそう言った。





段々文化祭が近づくにつれ、校内は妙に浮き足立っていた。


高校に入って初めての文化祭、私は楽しみで仕方がない。


葛木先生に我がクラスはお菓子作りをレクチャーしてもらったのだが、今まで葛木先生に特に興味のなかった女子達が何故か、ギャップ萌え!と騒ぎだしたり、葛木先生がお菓子作りをレクチャーしてくれるとの噂を聞きつけた他のクラスが、自分達のクラスでも教えてほしいと、一気に葛木先生争奪戦の様相になってしまった。




「うちが最初にお願いしたのに」


「まぁまぁ、みんなの先生なんだから仕方がないよ」


机で突っ伏しながら葛木先生の次の予定がなかなか押さえられなくなった状況に私は思わず不満を口にする。

そんな私を見て、実咲が苦笑いしつつ宥めた。


「実咲は部活の出し物で一緒にやれないんだよね、残念だな」


「いや、私は塔子のコスプレ見るために意地でも当日来るから」


「なんで私がメイドなんて」


私は裏方、実咲は部活でクラスの出し物には関われず、塔子はなんとメイドとして接客に決まっていた。


「いやーだって、黒髪眼鏡の知的メイドなんて王道でしょう!」


三人の会話に、突然加茂君がドヤ顔で入ってきてそう言うと、塔子の眉間の皺が深くなり、私と実咲は同時にびくついた。


「で、加茂君はメイド喫茶なのに執事やるんだ」


「そりゃー、僕がいれば宣伝になるデショ」


私のツッコミに、至極当然のように加茂君は胸を張った。

そんな加茂君を見て笑ってしまう。


「塔子のメイド姿と加茂君の執事姿、楽しみだなぁ」


私がそう言うと、加茂君はぱあっと顔をほころばせた。


「ゆいちゃん!僕はあなた専用の執事になりたいっ!」


「はいはい、セクハラで解雇、と」


加茂君が座ってる私の後ろからぎゅーと抱きつくと、目の前に座っている実咲がじと目でそう言った。

実咲ちゃんがいじめるー!と嘆く加茂君を、私は苦笑いしながら頭を撫でて慰めた。

そんな私達を呆れた顔で塔子が見ている。


「ねぇ、ゆいもやんない?メイド」


「いやいや、私は似合わないし、それに裏方少ないからまずいよ」


みんなやはりメイド服着たさなのかそちらの希望が多くなりすぎて、裏方はギリギリの人数だった。

即戦力ではないが、私がぬけたらまずい。


「ゆいちゃんがメイド服着たら、きっとメロメロだろうねぇ」


「誰が?」


加茂君の問いにそう答えると、加茂君は一瞬笑顔を止めた後、僕がだよーとにこにこと笑い出した。