おまけ:「従者」後日談
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「誠太郎、いるかー」
「ノックしてから入って下さいといつも言っているでしょう」
藤原光明が今度の学校で行われるイベントについて確認しようと、社会科準備室ドアををノックもせずいつものように開けると、そこの主である葛木誠太郎は静かにノートパソコンを閉じた。
「悪い、何かやってたか」
「いえ構いませんよ」
珍しくパソコンの蓋まで閉じた誠太郎の行動に光明は違和感を感じつつ、本来の要件を話し出した。
「で、この土曜日に打ち合わせをいれるって事でいいか?」
「すみません、その日はあいにく予定がありまして」
「何か会合でも入っていたか?」
学校で特に打ち合わせは入ってないはずだ。
ならあとはもう一つの仕事の関係だと思ったが、そんな記憶は光明には無かった。
「いえ、そうではないのですが、その日は1日予定がありますので、そうですね、火曜日ではどうですか?」
「日曜日の午前中はだめなのか?どうせ仕事が午後からあるんだし。
それに月曜日でも良いだろう、東雲の帰った後にすれば良いんだから」
それを聞いて困ったような顔をしている誠太郎に、さっきのパソコンを閉じた行為と、変な日程を提案したことで光明はなんとなく察しが付いた。
「あぁ、デートか。
なんだ、新しい女が出来たなんて知らなかった」
「いえ、交際はしてませんよ」
「へぇ、お前が自分から落としに行くなんて珍しいな」
誠太郎はこのルックスと物腰で、昔から女が絶えたことが無かった。
それもどれも見た目の良い女ばかり。
ようは黙っていても向こうが寄ってくるのを誠太郎が特に拒まないだけで、あまり積極的に興味を持っているようにも思えないようだった。
結局相手から別れを切り出され、それを追いかけもせず笑顔で承諾するので、激怒したり泣いた女は数知れない。
そんな誠太郎が、積極的に相手と会うために時間を作っていること自体、光明には驚きであり、どんな女がそこまでさせるのだろうとその相手に興味を持った。
「どんな相手?同族?」
「誤解しているようですが、そういう相手ではありませんよ?」
「もしかしてさっき、ホテルでも探していたのか?」
土曜日だけでなく、日曜日の午前中まで予定を入れないようにしたのだ、それは簡単に泊まりであることがわかる。
にやにやと面白がっている光明に、誠太郎は内心ため息をついた。
光明は鋭く頭がいい。
ただ、こと自分の事に関してはお約束のように鈍感ではあるが。
そんな光明が初めて特別視した相手と二人だけで食事に行くだなんて、口が裂けても言えない。
そうは思いつつ、それを言ったらどんな反応をするだろうか、という興味を少しだけ持ってしまった誠太郎は、自分の性格の悪さを再認識していた。
「さて、打ち合わせは終わりましたね?
まだ私は仕事があるので光明は戻ってはどうですか?」
あからさまに遠ざけようとしている誠太郎に、光明はそこまで本気の相手なのかと感心した。
「そうだな、戻るとするか。
・・・・・上手く行くと良いな」
光明は優しい笑みを浮かべてそう言うと、部屋を出て行った。
「上手くいって困るのはあなたでしょうに」
きっと心からそう思って言った光明に、誠太郎は罪悪感と共に、少しだけ不思議と優越感を感じてしまった自分に苦笑いを浮かべ、再度パソコンを開いた。