月曜日の巫女






パレードを終え、後は最後の花火を待つだけ。

皆パレードが終わったと共に、花火の見えやすい場所に一気に移動していく。

急に人が入り乱れて、私は人に押され後ろに持って行かれそうになった。

それを大きな手が引っ張り出す。


「あっち行くぞ」


そういうと、藤原は私の手を繋いだまま歩き出した。

ずっと触りたかった手に握られ、急に自分の顔が熱くなる。

良かった、夜で。

そう思い歩いていたら、花火が始まった。

みな、足を止め空を見上げ、その夜空の光に酔いしれる。

だけど藤原はそこで足を止めず、気がつけば人の居ない建物の角のような場所で立ち止まった。

繋いでいた手が放される。

そして藤原は私の方を向いた。


「ほら」


そういうと、おもむろに袋を差し出す。

それはさっきのガラスのお店の袋だった。

それを受け取ろうと手を伸ばした時、その手を掴まれ、気がつけば私は藤原の腕の中にいた。

突然の事で息が止まる。

何故、私にこんな事をするの?

子供だって、巫女じゃないっていう癖に。

必死に気持ちを抑えている私に、なんでこんな辛いことをするのだろう。



「怖い思いをさせてすまなかった。

・・・・・・来てくれてありがとう」



頭のすぐ上から声がした。

自分の髪の毛に、藤原の頬が寄せられているのがわかる。

薄いTシャツから、藤原の体温が伝わってくるかのようだ。

もういい。

何で藤原がこんな事をしたかなんて理由、考えたくない。

好きな人にこんな場所で抱きしめられている、それだけで、私には奇跡のような気がした。

私は、もっとその距離を縮めたくて、もっと触れていたくて、両手をおずおずと私を抱きしめる人の背中に回す。

そしてぎゅっと服を掴んだ。



「・・・・・・うん」



私の言葉で、抱きしめられる力が強くなった。

耳に藤原の息がかかり、私は思わず声が漏れた。

藤原の息に、熱に、クラクラして、自分の身体が崩れ落ちそうになるのを、必死に広い背中に掴まって耐える。

大きな身体から与えられる力を一身に受けて、私は泣きそうになっていた。


言いたい。

私の気持ちを言ってしまいたい。


でもそうすればもう二度と、きっと藤原は私を頼ってはくれない。

それは、それだけは嫌だ。

これで最後。

私なりに精一杯頑張ったんだから、婚約者のいる人にこんな事をすることを許して欲しい。

私はぎゅっと服を握りしめ、ゆっくりと藤原の首筋に顔を埋めた。

藤原の手が私の頭に触れて、まるでもっと自分の肌に触れさせるかのように引きよせられ、私の唇が肌に触れる。

私は静かに目を瞑った。



花火の音がする。


遙か、遙か遠くに。



こういう時に時間が止まればいいと思うのだろう。

私達は花火の音がなりやむまで、ただひたすらに、抱きしめ合った。








「忘れ物は無いか?」


「大丈夫」


ずっと帰りたくなかったのに、無情にもあっという間に寮の前に着いてしまった。

私の手には、お土産とそしてプレゼントの入った袋。

あの後本当に何事も無かったかのように藤原は元に戻った。

大人というのはこういうことにあまり抵抗がないのかもしれないと思って、なんだか酷く寂しくなった。


「ほら。後で部屋に帰ったら連絡しろよ?」


「え?」


そう言われて渡されたのは、名刺だった。

ただ名前だけ書かれた名刺。

その裏を見れば、手書きで携帯番号とメールアドレスが書かれていた。

私は驚いて藤原を見る。


「昨日のこともあるし、お前に何か変化が起きないとも限らないしな。

心配だから何かあればすぐに連絡しろよ?」


そういうと、優しく私の頭を撫でた。

泣きそうになるのを我慢して、それをごまかすかのように不満げに言葉を投げかける。


「いま、何もしてない?」


「勝手にするなって言っただろ?」


「言ったけど無視したじゃない」


「お前が嫌がることは、二度としないよ」


優しい声。

そして真っ直ぐな瞳に見つめられ、私は思わず俯いた。

とうとう夢の時間は終わったのだ。


戻りたくない。

まだ一緒に居たい。

そういう気持ちを全て言ってしまいたい。


「家に帰るまでが遠足だぞ?」


そうやって笑顔で言われ、私はゆっくりと助手席から降りた。

いま、自分がどんな顔をしているのか、正直分からない。


「東雲」


私が大好きな人の低くて、甘い声。


「またな」


「・・・・・・うん。気をつけてね」


そう返し、名残惜しい気持ちを必死に堪え、そのドアを閉める。

遠ざかる車を見ながら、私はただ涙が溢れるのを必死に手で拭った。