「良かった、かなり喉が渇いていたんですね」


「・・・・・・はい、美味しかったです」


葛木先生にコップを渡しながら、声が出たことに驚いた。
きっと声が出ない気がしたのは喉が乾燥していたからかもしれない。


「東雲」


真横にいた藤原の硬い声にびくりと顔を向ける。


「お前の体調が悪い事、気づかなくてすまん」


「いやいや、そもそも藤原だって体調悪かったでしょ、大丈夫?」


覇気のない藤原の声に、まだ体調が悪いのではと私は心配になった。


「俺は・・・・・・大丈夫だ。なにか悪い夢でもみたか?」


急にそんなことを聞かれ首をかしげる。そうだ、さっき涙を流していたんだった。

「そういえば・・・・・・なんだろう、内容は忘れちゃったけど。
でも凄く嫌な夢だったと思う」


「そうか」


「この頃何か夢見が悪いんだよね。
さっきはもっとはっきりしてた感じがするんだけど」


うーんと首をかしげた私を、
藤原と葛木先生が強ばった顔で見ている。


「あ、あの、すみません・・・・・・」


何だか私は悪いことを言ってしまった気がして思わず謝った。


「いや、違うんだよ。
単に生徒の不調に気づけなかった事を情けないと二人で思っていたとこなんだ」


藤原が苦笑いを浮かべる。


「そんなこと」


「女の子の身体は男には未知の世界だからね。
男子生徒よりも遙かに気を配らないと」


さっきまでの表情が嘘のように、
ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべてそんな事を言う葛木先生に、思わず笑ってしまう。


「・・・・・・俺はまだ仕事があるから、誠太郎、東雲を送ってやってくれ。
それと」


藤原が私を見た後、すっと目をそらした。


「もう放課後の手伝いはしなくていいよ。
無理させてすまなかった」


「え?あ、いや、別に藤原のせいじゃ・・・・・・」


「勉強でわからないところがあればいつでも来い」


そういうと、藤原は背を向けて出て行ってしまった。
その姿を私はぽかんと見ていた。
どうしよう、私のせいで酷く責任を感じてしまったのだろうか。
不安そうにしている私に葛木先生が声をかけた。


「大丈夫ですよ。むしろお灸になったと思います。
とりあえず東雲さんの荷物取ってきますからもう少し横になっていてください」


「ありがとうございます」


葛木先生は軽く微笑むと部屋を出て行った。

しん、と急に静まったことで、
この保健室には私一人しかいないのがわかる。
さっき出て行った藤原の顔が頭に浮かんだ。
あれは罪悪感を感じていたんだろうか。
でもなんだか違う気もする。
頭がまだボーッとしているのかいまいち考えがまとまらない。
私はぼんやりと2人の教師が出て行ったドアを見つめた。