「葛木先生!葛木先生が下にいるの!!」
勢いよくリビングに駆け込むと、大きなソファーで足を組んで座り、スマートフォンをいじっていた藤原が呆れたような顔をした。
「とっくに帰したよ。誠太郎は一睡もしてなかっただろうし」
「良かった・・・・・・。
こんなに不在着信入ってるし先生心配したよね。メール返信しなきゃ」
「・・・・・・なんで誠太郎とやりとりしてんだ?」
「え?連絡先交換したから」
「いつ」
「え?あ、確か、そう、藤原が、私と葛木先生をはめた時に」
思い出しながら答えると、何故か今度は黙ってしまった。
「言っとくけど、交換しようと先に言ったのは葛木先生だからね?
私が交換してってごねた訳じゃ無いから!」
「ふぅん。別に良いんじゃね?」
興味なさそうにそういうと、スマートフォンをテーブルに置いてソファーから立ち上がり、キッチンの方に行くと何か準備をし始めた。
別に私が無理矢理聞きだした訳じゃ無いのに、なんでそんな言い方をされないといけないんだろう。
するとふわりとコーヒーの良い香りが漂ってきた。
藤原は立ってる私をカウンターにある椅子に手招きする。
私が椅子に座ると、まっ白なマグカップに入ったコーヒーを渡された。
「悪いがミルクは無いんだ。砂糖ならあるから好きなだけ使って良いぞ?」
そういうと、束でスティックの砂糖をどさりと私の前に置いた。
何だろうこの雑さ。
私は仕方なく一つ入れ、スプーンで混ぜて飲んでみると苦い。
もう一つざらざらと入れて飲んでみると微妙。
もう一つ入れようかどうしようか悩んでいたら、また小さな笑い声が聞こえた。
カウンターに寄りかかって同じようにコーヒーを飲む、その笑い声の主を睨む。
「子供にブラックはきつかったな」
「そのお子様と一緒に寝たのは誰でしょうね?」
自分で言って、はたと止まる。
昨晩のあの冷たい気持ちを思い出させたのではと焦って藤原を見る。
だが、本人は顔に手を当てて、がっくりと肩を落としていた。
「あー、いや、言葉は間違ってないんだが、言うな、誰にもその言葉で言うな」
「は?」
「そうか・・・・・・本当に子供だったか」
再度ため息をついて肩を落とした藤原を見ながら首をかしげる。
何か変なことを言っただろうか。
「・・・・・・あ」
「それ以上言うなよ?間違っても俺にあってるか確認するなよ?」
私は思わず自分の口に手を当てた。
急に顔の熱がまた上がってきて焦ってしまう。
「まぁ、その、でも、未成年を家に泊めたのは事実だからな。
責任も取れないのに、親御さんには申し訳無い」
「それは・・・・・・婚約者がいるから?」
困ったように頭をぐしゃぐしゃかいていた藤原の手が止まる。
私は思わず聞いてしまった。
聞かなければ良かったのに。
「加茂のやつか」
「何もしないでね?私が色々知りたいって言っただけだから」
「何もしないよ。あいつも馬鹿じゃない。約束を守ればそれでいい」
もしかしてまた藤原の心が何か冷めていくのではと、思わずびくびくしてしまう。
そんな私に気がついたのか、苦笑いを浮かべた。
「悪い。心配させたな。大丈夫だ、いつも通りだから」
「うん・・・・・・」
私は胸をなで下ろすと共に、いつもの表情でコーヒーを飲んでいる藤原に聞いてしまった。