「おい」
「・・・・・・んー」
「いい加減起きろ。10時過ぎたぞ?」
誰かの声がする。
夏休みなんだしもう少し、と寝返りをうったら身体を揺すられた。
ぼんやり目を覚ますと、何故か藤原が苦笑いで私を見下ろしている。
なんで私の部屋に藤原がいるんだろう。
「言っておくが、ここは俺の家だからな?」
その言葉を聞いて、急にすぅっと眠気が引く。
がばっとブランケットをはねのけ起き上がり周囲を見渡す。
大きな窓から明るい日差しがレースのカーテン越しにさんさんと入っていて、いつも寝ているベッドとは段違いに大きいベッドに寝ていることに呆然とする。
私は顔を硬直させたまま前を見た。
そこには身体を折って口に手を当て、ひたすら笑っている藤原がいた。
「どうだ?目が覚めたか?」
そう言って私を見るなり、また笑い出した。
「・・・・・・酷い」
「悪い。あまりに反応が面白くてな。
顔を洗いたければ向こうだ。
コーヒーしか無いが動けそうならリビングに来い」
そういうと藤原は部屋を出て行った。
私は呆然とベットの上で固まっていた。
確かベットの隅、それもブランケットの上にいたはずなのに、さっきまでしっかりと枕に頭を乗せ、ベットの真ん中でブランケットも被って寝ていた。
ということは、私は運ばれた訳で。
いやいや、私、昨日何したんだっけ?
昨夜の、自分が藤原を撫でていたこと、抱きしめられたこと、そしてとんでもないことを言っていた事をぶわっと思いだし、一気に自分の顔の熱が上がったのがわかった。
なんて事をやったんだろう・・・・・・!
いや、冷静に考えればあの時の私は私だったのだろうか、夢だったのでは?
と思うけど、どう考えても今いる場所が夢じゃなかったと突きつける。
藤原の、獣のような、そして冷え切った瞳。
自分の手首が押さえつけられてた事を思いだし、思わず自分の身体を抱きしめる。
でも、私の声に、言葉に帰ってきてくれた。
さっき見たのは私の知ってる楽しそうに笑う藤原だ。
そして私はそんな笑顔を見てやっと気がついた。
私は藤原の事が、好きだ、という事を。
「馬鹿みたい」
思わず呟く。
どうして私をそんなにも突き動かしているのか分からなかった。
そんな単純なことをどうして気がつかなかったのか自分でもわからない。
好きな人のベットで身体を起こしたまま私は両手を顔に当てた。
「ほんと、馬鹿だなぁ」
諦めにも似た声が出てしまう。
だって私は・・・・・・。
私は頭を冷やそうとベッドから起き上がり、寝室の奥にあるドアをあけた。
そこは綺麗な洗面所というよりは、パウダールームというのがぴったりのような広くてお洒落な空間で、いくつかドアがあり、おそらくバスルームや他の部屋と繋がっているのがわかった。
勢いよく水をだし、目一杯ごしごしと顔を洗う。
横に置いてあるふわふわのタオルで拭きながら、ここには生活感があまりに無いことに気がついた。
洗面台にあるコップには歯ブラシが一つだけ。
私はそれにホッとしてしまった。
鏡に写る自分を見る。
洋服はくしゃくしゃだ。
ため息をつきながら服を整えていると、パンツのポケットにスマートフォンがあったのを忘れていた。
それを確認し、一気に血の気が引く。
そこには葛木先生からの不在着信とメールがずらっと入っていた。