エレベーターの最上階に着くと、その床にはふわふわの絨毯が敷き詰められていた。
廊下を進むと奥にドアが一つだけある。
表札はないがこのフロアに部屋のドアは一つだけ。
私はためらわずにそのドアのチャイムを鳴らした。
反応は無い。
再度鳴らすがやはり反応は無かった。
先生がここに藤原が居ると言った以上、反応が無いのはもしかしたら中で倒れているせいかもと思えて、私は急に不安になってきた。
もらった合鍵を差し込み、鍵を回すとガチャリと音がする。
ドアを少し開けてみるとチェーンもかかっておらず、私は一歩、中に入った。
肌に、ぴりっとした痛みが一瞬走ったが、私はそれを無視し、ドアを閉めた。
部屋の中は一切電気が付いていない。
廊下の奥にある磨りガラスのドアから、外の光が差し込んでいるようで、私はそこに進みそのドアをあけた。
開けると広いリビングで、中心には大きなソファーとテーブルがあり、横には大きな窓が広がっている。
カーテンが全く閉められていないせいか、部屋の中に月明かりが十分なほどに届き、思ったよりも室内は明るかった。
周囲を見渡し奥を見れば一つ、ドアがある。
もしかしたら寝室で、藤原はここにいるかもしれない。
私はいまだ電気もつけないまま、その部屋のドアを静かにあけ、中に入った。
その部屋はリビングよりは小さいが、大きな窓から外の光が差し込んで、目も慣れてきたのか、部屋の中が割とよく見える。
部屋の奥に大きなベットがあるのがわかり、私はそこに近づいた。
「何をしに来た」
低く、そして響くような声が、部屋の静寂を打ち消す。
思わず振り返ると、入ってきたドアに腕を組んでもたれかかっていたのは、藤原だった。
薄暗い中で、何故か藤原の目だけが鋭く光って見える。
その瞳はまるで、獣のような目だった。
藤原が一歩、踏み出す。
私はびくりと思わず後ずさりした。
だが、後ろにあったベットにぶつかり、その上に尻餅をつく。
慌てて目の前を見れば、見下ろすように藤原が立っていた。
怖い。
逃げようと、座ってしまったベットから急いで立ち上がろうとした。
その瞬間、スローモーションのように手が伸びてきたかと思うと、勢いよくベットに倒され、気がつけば自分の両手首が頭の真上で藤原の左手だけで押さえつけられた。
藤原の片足がベットの端に乗り、ぎしり、という音がして、私の身体が少しだけ揺れる。
すぐ近くには藤原の顔。
だが何も感じていないかのような無表情と、鋭く光る無機質な目が、私をただ見下ろしている。