私は葛木先生の車で都心に向かっていた。
あの時も、葛木先生は藤原を助けたくて私を車に乗せた。
「そろそろ話してもらえませんか?」
電話でまずは事情を話して欲しいと言ったが、先生は向かう途中で話すから、もしそれを聞いて嫌なら後で断ってくれて構わないと言った。
それだけ急いでいるのだろう、私が行くというと、すぐに寮に迎えに来た。
「光明が、非常に危険な状態まで心身が崩れています」
前を向きながら少し強ばった声で話す葛木先生の顔を、私は見る。
「あなたを保健室に連れて行ったあの日から、光明は何か自暴自棄になっているようでした。
そうはいってもきっとしばらくすれば落ち着くだろうと、私は思っていました。
でも、減らすと言った仕事を以前より増やし、本来の目的などどうなってもいいかのようでした」
「前も話してましたよね?
その本来の目的って何なんですか?」
そう、あの時にも出ていた話し。
でも藤原は私は話したくないようで教えてはくれなかった。
「・・・・・・東京の現長(げんおさ)である光明の能力を十分に知らしめ、京都側の重鎮達や反発する者を全て押さえ、
・・・・・・最終的には巫女制度を廃止することです」
周囲の景色にビルやマンションが増えていく。
やはり藤原は巫女を無くしたかったんだ。
私ですら無くなれば良いと思うのだ、きっとずっと悩んでその為に頑張ってきたのかもしれない。
なのに、そんなに頑張っていたものを簡単に諦めてしまったのだろうか。
「それを、本当に諦めたんですか?」
「わかりません。
でも以前より遙かに冷徹に対応することで、こちら側にいた人間達が困惑しています。
長の能力に圧倒されている者達もいますが、今は畏怖に近いでしょう。
でもそんな無茶なことをし続ければ、光明が壊れるのは時間の問題です」
葛木先生の声から、どれだけ逼迫している状態なのかが伝わってくる。
私には陰陽師の内部の事はよくわからない。
けど、藤原が崩れるというのは、私なんかが想像するより、きっと東京の陰陽師にとって大きな影響をもたらすのだろう。
「今、藤原は家にいるんですよね?」
「はい。合鍵は持っているのですが、結界が張られて入れませんでした」
「先生は、私ならそんな中にも入れて、藤原が私の言葉を聞くとでも思っているんですか?」
「はい」
「藤原は、私が加茂君に酷い事をしないでとあんなに言ったのに、聞かなかったじゃないですか」
「いえ、聞きましたよ」
「聞いてないですよ!」
なんで未だに葛木先生は勘違いをしているのだろう。
「あなたが『大嫌い』と言って、止めたじゃないですか」
私はその何の抑揚もない言葉を聞いて、びくりとした。
「責めているんじゃありません。
あなたの言葉は、光明にとっては重い、ということなんです」
「また私は『特別』ですか?
さすがに先生、思い込みすぎですよ」
「いえ、光明自身が気がついていないだけです。
私はずっとあの子の側で見てきているのですから。
だから、あなたじゃなければもう助けられないんです」