あれから夏季講習で学校に行くこともあった。
英語の担当は本来藤原のはずが、何故か別の先生が担当となり、結局学校で藤原や葛木先生に会うことは無く前半を終えた。
実咲と塔子と約束通り夏休みを満喫し、気がつけばあと一週間ちょっとで学校も始まると言う事で、私は早めに寮に戻って残りの宿題を片付けることにした。
そんなある日の夜の事。
お風呂からあがり、髪も乾かして、しばらくしたら寝ようかと思っていた時だった。
テーブルに置いてあるスマホから着信音が流れ、私はスマートフォンを手に取る。
ディスプレイに表示されていたのは、「葛木先生」という文字。
私は慌てて通話ボタンを押した。
「はい」
『東雲さんですね?』
本当に久しぶりに葛木先生の声を聞いた。
だがいつもなら柔らかく穏やかだったその声は、とても切羽詰まっているように聞こえた。
「どうか、したんですか?」
時計を見ればもうすぐ0時。
こんな時間に葛木先生が電話してくる理由は一つしかない。
『こんな事をお願いするのは、虫が良いってわかっているんです』
「藤原に何かあったんですね?」
葛木先生の言葉に私はそう言い切ると、急に向こうからの反応が無くなる。
「先生、回りくどい言い方しないで要件を言って下さい」
我ながら年上の先生に向かって酷い言い方だ。
でも、もう変にごまかされるのは嫌だった。
ずっと何も言ってこなかった先生がこんな時間に電話をしてきている。
それだけで良くない状況だということくらいはわかった。
『東雲さん、光明を助けて下さい』