「さて、どっから話そうか」


スマートフォンをジーンズのポケットにしまうと、加茂君は壁にもたれながら自分の隣に手招きした。

私はそこに行き、2人で壁にもたれかかりながら並ぶ。

ずっと奥には既に真っ暗で室内のライトが映る、大きな窓が広がっている。


「僕は、本当は東京の長(おさ)と、まずは現状について話しをしてくること、そして学園に優秀な人間がいないかリストアップしてくるのが仕事だったんだ。

でも、東京の長に巫女が見つかったらしいって話しを聞いてしまって、なるほど、本当はそこを探ってこいって意味なんだと思た。

だけど直接長と話すなんてより先に、見てやろうと思ったんだ、僕の姉さんの邪魔をする女を」


巫女が姉さんの邪魔?

嫌な予感がした。


「僕の姉さん、いや、幼なじみで姉と慕っている人は、藤原先生の婚約者なんだ」


頭が、心が、何もかもが止まった気がした。

藤原に婚約者がいた。

何でその事が、私の心にこんなにも大きくのしかかるのだろう。


「葛木先生が話したんでしょ?

藤原先生の父親が今は奥さんとじゃなくて、巫女と一緒に住んでる話し。

それが、それだけじゃないんだ。

その前も、その前も、みんな最後は自分の奥さんじゃなくて、巫女を選んでるんだって」


私は呆然と加茂君を見上げる。


「東京の長の妻って、その後の血のためだけに星読みによって選ばれるらしいけど、巫女は長が自分自身で選ぶんでしょ?

ほんと東京の陰陽師っておかしな制度取ってるよ。

長く務めるためっていったって、僕にはそこまでする理由がわかんない。

だからまずは、姉さんの邪魔になるヤツをとりあえず見つけなきゃと。

だけどそれで一番怪しそうなゆいちゃんにロックオンして、どれくらいなもんか試してみたら、あんな恐ろしいことになっちゃって」


両手で身体を抱きしめて、思い返したように加茂君は震えた。


「あのね?私、巫女じゃないと思うよ?」


「だけど葛木先生は信じてるみたいだよ?」


「藤原が、葛木先生の思い違いだ、みたいな事言ったの」


今は自分が巫女である可能性なんて無かった事にして欲しい。

私には、巫女というものは辛いことしか呼び寄せていないから。

藤原が思い違いだと言う事が、今は救いのような気がした。


「ふぅん。まぁもう良いけど。

藤原先生には二度と巫女の詮索するなってきつく約束させられたし。

で、僕がゆいちゃんにあんな事したのは、そういう理由だったんだ。

本当にごめん」


「あ、ううん、もう謝らないでよ。

えっと、それでね?もしも、もしも、私が万が一巫女だったとしたら、加茂君もやっぱり・・・・・・私を嫌うの?」


自分で馬鹿な事を思わず聞いてしまった。

答えがわかってるのに、何で自分から聞いてしまったんだろう。