「これは陰陽師でも若手のグループで開発したアプリなんだ。
これのおかげで簡単な事なら印も結ばないで済ませられる。
未だに紙にこだわってるひともいるけど、かさばるし目立つしナンセンスだよ。
さっきの白いのは気づいてる思うけど塩をシート化したもので、これも長年かけて開発された優れモノ。
粉の塩なんて持って歩いてたら、警察に職質されると面倒になるってのが良くあってさ」
スマートフォンをさわりながら加茂君は弾んだ声で説明する。
私は自分の知っている陰陽師の世界とはあまりに違っていて、こんなにも現代では進んでいるんだと純粋に感心した。
「ねぇ、ゆいちゃん」
真面目な声と同時に、加茂君が私の右手を取って自分の唇に近づける。
「僕たちのグループに入らない?」
上目遣いでそう言うと、私の指にそっと口づけをした。
まるで素敵な騎士に告白されているかのようだ。
こんな素敵で甘い誘い、少し前の私ならきっと喜んでいたのだろう。
でも今はそうじゃない。
「なんで、私なの?」
「最初は藤原先生が執着してる女の子が例の子かもって近づいたけど、今は純粋にゆいちゃんと一緒にいれたら良いなって思ってる。
とても僕に合ってるって今も実感したし」
「・・・・・・ねぇ、なんであんな事したか教えて」
藤原が執着してるだなんて誤解しているとは思っても見なかった。
でもやっぱり私が知りたいのは、なんで加茂君があんなことをしたかだ。
ただ巫女だと調べるならあんな悪意を向けなくても良いはずで、きっと加茂君なりの理由が別にあるのではと私は思っていた。
加茂君はそんな私の顔を見て、困ったような表情を浮かべ、そして私を真っ直ぐに見た後、深く私に向かって頭を下げた。
「怖がらせて本当にすみませんでした」
「あ、いや」
急に真面目な顔で頭を下げられ思い切り驚いた。
「ずっとちゃんと自分の意志で、言葉で言わないとって思ってたんだ。
謝るの遅れて本当にごめん。
正直言えば、嫌われるんじゃないかなって、理由話したくなかったんだ」
そう言うとちょっと寂しそうな顔をした。
強制的に謝らされた事で済まさずに、こうやってデートに誘ってくれて、きちんと謝ってくれた加茂君の優しい人柄を、私は再認識していた。
「ゆいちゃんにはあんな事したのに助けてもらったし、葛木先生にも、出来るだけゆいちゃんに協力して欲しいと頼まれたから。
うん、話せる事は全て話すよ」
「え?葛木先生がそんな事言ったの?」
「うん。助けられなくてすまなかったってわざわざ頭を下げに来たんだよ」
そんなこと全く知らなかった。
葛木先生もあんな事になって苦しんだのかも知れない。
でも、あんな事を見過ごした先生を、簡単に許す気にもなれなかった。