「僕を男としてみてなかったの、酷いと思う」


「いや、そんなつもりは」


「少なくとも意識してくれなかったでしょ?」


その言葉に思わず、うっと戸惑い、口ごもる。

加茂君と過ごすのは居心地がとてもよくて、そういうのは何も考えていなかった。


「まぁいいや。お詫びにちょっと仕事手伝って?」


そういうと手を引っ張り、まだ景色を眺める人達から離れて奥に進む。

立ち止まった場所は、何故かぽっかりと人がいなかった。

壁に加茂君は背中をつけると、私の手を離した。


「ちょっと僕と向き合うようにしててね」


そういうとジーンズのポケットからスマートフォンを取り出し操作しだした。

私が覗き込まないようにしていたら、手招きされスマートフォンの画面を指さす。

その画面には何かの文字が沢山流れるように映っていた。


「手のひら上にして少し前に出して。

あ、別に何もゆいちゃんに悪いことしたりしないから。

手をそのままにして、しばらく動かないでね」


私は特に疑うこともなく言われるがまま、手のひらを上にして両手を差し出す。

あぁこんなこと以前もあったなぁ。

またあの皇居での出来事を思い出しそうになり、目の前のことに集中した。

加茂君は私の掌に未だに文字が流れるスマートフォンを乗せる。

今度は加茂君が鞄から小さいケースを取り出すと、そこから、カードサイズの白くて薄いシートを一枚取り出した。

そして私の掌に置いているスマートフォンの画面の上に乗せる。

全く何をしているのかわからず、私はじっとそれを見ていた。

すると、加茂君は手を合わせ、素早く手印を切った途端、それと同時にスマートフォンの上にあるシートが一瞬にして粉になり、四散する。

周囲の空気が一気に軽くなるのを全身で感じて、私は目を見開いた。


「はい、おしまい!」


私は両手にスマートフォンを載せたまま、呆然と目の前の加茂君を見る。


「やっぱりゆいちゃんが一緒なだけあるなぁ。

 いつもより強くいけたし」


私の手からスマートフォンを取りながら加茂君は満足そうな顔をした。


「何したの?」


「ちょうどここら地域の浄化を頼まれてたんだ。

上からやると範囲も広くいけるからここに来られて助かったよ。

あ、もちろんデートが目的でこれはオマケ。

で、面白いでしょ、コレ」


そういうと未だ文字の流れるスマートフォンの画面を見せた。