「ごめんねぇ」


「加茂君遅刻」


私は15分前に集合場所に居たというのに、加茂君は10分遅れてきた。


「どう、どう?」


加茂君は私の前に来た途端、両手を少しあげながらくるりと回る。

大きめのTシャツを二枚重ねして、革紐の先にシルバーのチャームのついた長めのネックレス、スキーニージーンズはくるぶしの長さにして、黒の斜めがけのバックをしている。

さすがハーフというべきか、こんなに加茂君はスタイルが良かったのかと初めて知った。

タレ目がチャームポイントの可愛い系モデルと言われても信じそうだ。


「格好いいよ」


私はお世辞抜きにそう言った。


「藤原先生より?」


笑顔でそう尋ねる加茂君に、私は突然の名前を聞いてびくりとする。


「ごめんごめん、苛めないって決めたのに。

大丈夫。センセより、僕の方が遙かにイイ男だってわからせてあげる」


そう言って私の手を取ると、勢いよく引っ張って走り出した。


「あのバス乗らないと次が20分後なんだ!」


「それ早く言って!」


そうやって笑いかける加茂君に、私は心の中で沸き上がるものを必死に押さえながら笑顔を浮かべた。



バスと電車を乗り継ぎ、久しぶりに都心に出てきた。

そうだ、都心に来るのはあの葛木先生に車で皇居に連れてこられて以来。

ばっと、頭の中にあの日の事がよぎる。

私は目を瞑り、頭を振った。



私達は若者達で溢れかえる、JR渋谷駅に降りた。

加茂君は初めての渋谷に興奮しているようで、人混みも気にせず何度も角度を変えて、忠犬ハチ公をスマホで撮影している。

それを、近くを歩く女性達がちらちらと見ている。

あれは物珍しくて見ているんじゃないというのは、次ぎに加茂君の横にいる私に向けられる視線で分かった。


「ゆいちゃんありがと!次はやっぱり109でしょ!」


撮影に満足したのか、次は意気揚々とお目当ての白いビルに指を指す。

私はそんな無邪気な顔に何故かホッとさせられた。

横に並んで歩いていて、思ったよりも背が高いことに気がついた。

でも藤原の方がもっと高いな。

そう無意識に思った自分に驚いて、そして気持ちが一気に落ち込む。

その事を消さなくてはと、私は頭をまた振った。

すると加茂君に手を繋がれ、驚いて顔を見る。


「人混みではぐれるとまずいじゃない?僕が」


そう言うとにっこり笑い、ウィンクした。

そっか、きっと加茂君はわかってるんだ。


「加茂君は優しいね」


私の言葉に、大きな目をもっと大きくして私を見ると、今度はすぐに顔をそらし、頬をかいている。


「優しくないよ、あんな事したし」


「何か理由があったんでしょ?」


「まぁ、ね」


「その理由、教えてくれる?」


加茂君は私の手を繋いだまま、前を向いて歩いている。


「・・・・・・後でね」