あの一件の後、藤原は驚くほどに、今までと何も変わらずに過ごしていた。

屈託無く生徒達と笑い、成績の悪かった生徒には親身に教えていた。

今日も葛木先生の周りを女子達が賑やかに囲み、先生は穏やかに笑っている。

変わったのは唯一、私だけ。

私はあの後、藤原と一切会話をすることは無くなった。

葛木先生とは最低限の会話はしたけれど、時折何か言いたそうな雰囲気を感じると私は逃げた。

今まで私を茶化していた実咲も塔子も、一切二人の名前を出さなくなって、クラスのみんなすらも、この事に触れることは無かった。

まるで月曜日の放課後の事は最初から無かったかのように。

そして気がつけば、明日から夏休みになっていた。




「2人とも夏季講習取ってるんだっけ?」


3人で下駄箱のある一階に降りながら、実咲が私と塔子に尋ねた。


「そうだよ。実咲は合宿三昧だっけ?」


「残念ながら補習の日程が入っているのだ」


私の言葉に実咲は何故か胸を張ってこたえると、塔子が、何言ってるの、と苦笑いしながら返した。


「まぁみんなまだ当分寮にいるし、遊ぶ日程はまた考えよう。

花火大会やプールも行きたいし!」


うきうきと話す実咲に、私と塔子も夏休みが楽しみで仕方がない。

下駄箱に着いた時、他の生徒達が歩きつつ誰かを見ていた。

クラスの下駄箱の近くにある柱に、男子が一人、制服のズボンのポケットに両手を入れて、周囲を見渡していた。

その男子は、綺麗な栗毛色の長めの髪を横に少し長している。

こんな外国人の生徒はうちにいただろうか。

三人で靴を履き替えると、その彼の前を通り過ぎた。


「待って!待って!」


後ろから声がして不思議に思い振り向くと、さっきの外国人の男子が焦ったようにこっちに走ってきた。