「俺のことは、大嫌い、なんだろう?」



ゆっくりと確認するかのようで、そしてとても乾いた声だった。

その声に、心臓がどくんと音を立てて私の全身が強ばる。


「なら、お前がそこまで言う理由が俺にはわからないな。

そんな俺に、何を、どうして欲しい訳?」


すっとこちらを向くと、軽蔑するような眼差しを向けられた。

刺すような視線に、自分の喉が閉まって、息が苦しくなる。


なんで、なんでそんな言い方するの。


私は気がつけば、また涙が流れていた。

そんな私を、表情も変えず藤原は見ていた。


「いいね、女ってのは。

泣けば、相手が妥協すると思ってる」



心底呆れたような声に、私の唇が、身体が小刻みに震え、心臓が酷い音を立てているのが、しっかりと自分の耳に届いていた。

そして藤原は私を冷たい目で見た後、また前を向いて目を瞑った。


私は、突然ぐらりと身体が崩れるような感覚に陥って、思わず足がよろけそうなのを必死にふんばり、どんと音を立てて思わず一歩下がった。

そんな音がしたというのに、藤原は目も開けなければ、こちらも見ない。

私は少しだけそのまま呆然と後ろに下がる。

それでも藤原は私の方を向くことは無かった。


私は背を向けて一気に走り出すと、振り返らずに重いさびついたドアをあけ、階段を勢いよく降りる。

どんどん目の前が酷く霞んで思わず階段を踏み外し、転がり落ちそうになるのを、すんでの所で横にある手すりに掴まった。

私は、手すりを掴んだまま、その場にずるずるとしゃがみこんだ。

この階段は校舎でも一番奥で、あまり人が通らない。

静かなはずのこの場所なのに、酷い耳鳴りがして頭が割れるように痛い。

私は身体を丸めて、流れ続ける涙を必死に覆い隠した。


もう嫌だ。

本当にもう嫌だ。


完全に藤原に嫌われたことを痛いほどに味わった。

今までどんなに冷たい目になっても、必ずいつも通りに戻っていた。

なのに今回は今までに見たこともないほどに、藤原は冷え切っていた。

そして私に向けられた軽蔑の眼差し。

もう本当に戻れない。

頭が痛い。

耳鳴りが鳴り止まない。

息が出来ない。

段々と目の前が白くなってゆく。


『たすけて』


私は、誰に、その助けを求めたのだろう。

私はそのまま意識を手放し、その場に倒れ込んだ。