「加茂君!加茂君!しっかりして!」


腕に手を伸ばし、必死に私は揺すった。

だが、段々ぼんやりとしているのか、震えながらぶつぶつと言っている。

私は加茂君を掴んだまま、回りを見渡す。

だめだ、何か感じるとか見えるとか、そういうのは全く分からない。


「藤原なんでしょ!?

やめてよ!加茂君が苦しんでるじゃない!」


陰陽師というのなら式神によるものなのか、それとも術か。

私には何も判断がつかない。

でも葛木先生の様子からして、藤原が加茂君に何かをしているのは間違いないと思った。


「加茂君!しっかり!こっち見て!」


私は加茂君の前に座り、両手で顔を支えた。

だが、がくりと横に倒れそうになったのを私は必死に抱き留める。

背後から小さな音がして振り向けば、この部屋のドアの近くに葛木先生が立っていた。


「葛木先生!やめさせて!」


私が必死に叫んでいるのに、先生はその場から動こうとしなかった。

腕の中で震える加茂君を見て、もの凄い勢いで怒りがこみ上げる。


「藤原!出てきなさいよ!!!」


そう言い放って周りを見渡すが、何の反応も無い。

加茂君はいまだに震えている。



私の中の何かが、ぷつり、と切れる音がした。



「藤原なんて、藤原なんて・・・・・・大嫌い!!!!!」



突然、一気に加茂君の体重が私にのしかかり、私は加茂君の下敷きになった。

しかし加茂君の震えは止まったようで、すぐ近くにある加茂君の顔を覗き込むと、苦しそうな顔で目を瞑ったままだ。

私は起こそうと声をかけながら彼の頬を軽く叩いた。


「大丈夫。気を失っているだけです」


急に身体が楽になったかと思ったら、葛木先生が意識を失った加茂君を持ち上げていた。

私はそんな葛木先生を思い切り睨む。


「藤原はどこにいるんですか?」


私の声は怒りで震えていた。


「陰陽師ってこんな酷い事するんですか?!」


葛木先生は加茂君を横にさせて、私に背を向けていた。


「藤原の居る場所を教えて下さい」


未だ何も答えない先生に私は再度強く言う。


「・・・・・・わかりません。でも校内にはいると、思います・・・・・・」


先生は私に背中を向けたまま、項垂れたように力なく答えた。

私は怒りで先生に向かって酷い言葉を投げつけそうになるのを、ぐっと拳を握って耐えた。

立ち上がると、部屋を出る。

先生は出て行く私の足音を聞いても、何も声をかけなかった。

加茂君はさすがに葛木先生が何とかしてくれるだろう。

問題は藤原だ。


私は怒りで頭に血が上っているのがわかりながら、社会科準備室を出る。

まずは英語教師室に行こうと歩き出そうとしたその時、何か背後が気になって、反対側の廊下を振り向いた。