「加茂君、もういいから」
既にもうどうでもよくなっていた私には、あんな事で謝罪される気にもならなかった。
「ご、ごめん、なさい・・・・・・」
途切れ途切れに俯いたままか細い声で謝る加茂君に、そんなにも申し訳無く思っていたのかと知って、投げやりな気分だった自分が少し恥ずかしい。
「ほんともう良いから。気にしないで」
自然と私の声は和らいでいた。
だけど加茂君は俯いたまま黙っている。
良く見ると、身体の横にある手が、かたかたと小さく震えているのがわかった。
酷く京都で怒られたのだろうか。
何だか本当に申し訳無い気持ちになってきていた。
しかし突然加茂君は膝から崩れ落ちたかと思うと、両手をついて頭を下げた。
「二度と、二度と、しま・・・・・・」
「やめて!やめてよ!
そんなことすること無いから!」
急に土下座をしたかと思うと、震える声でまた謝りだした。
私は慌てて加茂君に近寄ってしゃがむ。
加茂君の肩を持って起こそうとしているのに、その身体はぴくりともしない。
男子の力ってやっぱり強いんだ、と途惑っていたら、少しだけ加茂君が私の方を向く。
眼鏡の隙間から見えたその目は、涙を浮かべ怯えているように見え、私は彼の肩を持ったまま、その怯える目の意味に困惑する。
「ぐっ!」
急に苦しそうな声を出したかと思うと、私の肩に置いた手を彼が振り払う。
「違います、違います・・・・・・」
今度は膝をついたまま自分の身体を抱きしめ、震えながら加茂君はうつろな目で言葉を繰り返した。
私は急いで立ち上がると隣の部屋に走る。
「先生!」
未だ入り口に立っていた葛木先生は、私が声をかけても私の方を見なかった。
私は先生の前に走ると、先生の腕を両手で掴んで思い切り引っ張っる。
「加茂君の様子がおかしいんです!助けて!」
見上げる私をやっと先生は見たかと思うと、また顔を背けた。
「先生!」
「すみません、私にはどうすることも・・・・・・」
力なく言ったその言葉に、私はすぐに気がついた。
私は振り返り、部屋の中を見渡す。
「藤原ですね?藤原がやってるんですよね?」
再度葛木先生の方を向いて確認しても、先生は俯いたまま答えない。
私は掴んでいた葛木先生の手を乱暴に離すと、再度加茂君のいる部屋に急いで戻る。
そこには、まだ加茂君が膝をついたまま震えていて、かなり辛いのか、顎からぽたりと涙か汗かわからない水滴が落ちた。