月曜日、やっと加茂君は学校に来ていた。
でも彼はこちらを見ることもなく、私も彼に何の興味もなくなっていた。
昼休みに藤原が来なかったのに、実咲も塔子も何も言っては来なかった。
私は普通に笑ってくだらないことを話して授業を受けて、昼休みのこと以外はいつも通りの放課後を迎える。
そして私は二度と、放課後に葛木先生や藤原に会うことは無くなったのだ。
図書室に寄ってから帰るからと言って、実咲と塔子とは教室で別れ、廊下を歩いていると、プリントの山を持っていた担任に声をかけられた。
「ちょうど良かった!
これ、社会科準備室に届けてくれないか?」
そういうと、私が何か言う間も無く、どさりとプリントを渡された。
「私用事が!」
「頼むな~」
私の言葉を聞いていなかったかのように、他のプリントを持って、担任はさっさと行ってしまった。
「なんでよりによって」
私は大量のプリントを持ったまま、なんとか行かないで済む方法を考えた。
せめて友達が通れば一緒に行って貰おうと見回したが、見事に誰も通らない。
私は誘うことを諦め、葛木先生が居ないことを祈りつつ、社会科準備室に向かった。
部屋の前に立ち、再度考える。
そうだ、ノックして先生の声がしたら、プリントを入り口に置いて逃げよう。
このプリントは単なる授業の補足資料。
ドアをノックしたのに誰も入らなければ気がつくはず。
私は覚悟を決めて、ノックした。
返事はない。
再度大きめにノックした。
しばらく待ったけど反応は無かった。
これは誰もいないという事だ。
私はそっとドアをスライドして開ける。
案の定そこから見える場所には誰もいなかった。
私はドアを開けたまま静かに入ると、真ん中にある机にプリントの束を置いて、すぐに部屋を出ようとした。
ぱん。
ドアの閉まる乾いた音がして振り向けば、そこには葛木先生が立っていた。
私は驚いて思わず身体が下がる。
「奥の部屋に加茂君がいます」
全く予想していなかった言葉に、私の思考が一瞬止まる。
「東雲さんに謝りたいそうです。
奥の部屋に行ってあげて下さい」
葛木先生の言葉は何故か弱々しい。
私をほとんど見ずに話す姿に、酷く違和感を感じた。
「謝らなくて良いって加茂君に伝えて下さい」
私はそういうと、ドアをふさぐように立つ先生の前に行き、先生を見上げた。
「出して下さい」
「どうか、彼のために行ってあげて下さい」
未だドアの前から動かずそう言った先生の言葉がひっかかる。
なんで彼のために、私がいかないといけないのだろう。
「お願いです」
やっと先生は私を見たかと思うと、懇願するように言った。
何か変だ。
私はじっとそんな先生を見つめた後、無言でくるりと先生に背を向け歩き出す。
奥の部屋に入るドアに手をかけガチャリと開けると、そこには、部屋の奥、俯いた加茂君が1人、立っていた。