「なら、嫌うのは当然じゃないですか」


納得するしかなかった。
そんな、家族を壊した存在と同じになるかもしれない私に、優しく出来るわけがない。


「いえ、だから違うんです」


「違わないですよ!だから、藤原は嫌いだって」


私はムキになって言った。
先生は何もわかっていない。
藤原があんな心が死んだようになるのは、全てそのせいだというのに。


「聞いて下さい、東雲さん」


かっとなっている私を宥めるように、先生はゆっくりと優しく声をかける。


「今、光明は、父親と一緒に居る元巫女の女性とは上手くやれているんです」


「えっ?」


全く予想外の言葉に私は声が漏れた。


「光明が本当に嫌っているのは、『巫女』という存在を作り上げ、いつも祭り上げようとしてる事なんです」


「いや、だから、藤原は巫女が嫌いだって」


「えぇ、『巫女』という制度を嫌っているんです。
そういう存在がいないと東京の陰陽師の長は長く務められない、絶対に必要だと、
光明自身を含め、全員が思い込んでしまっている現状を」


わからない。
それは結局巫女になった人を嫌うことと同じなのでは無いだろうか。
実の父親と一緒に居る元巫女を、本当はまだ恨んでいるのかもしれない。
だからこそ私が巫女になったら嫌うと言ってしまったんじゃないだろうか。


「東雲さん」


途惑う私に、葛木先生は隣からゆっくり名前を呼んだ。


「光明は、本当は何と言ったのですか?
東雲さんを嫌う、とはっきり言ったのですか?」


そう言われてあの時のことを思い返す。


「・・・・・・私が巫女だったら嫌うのか聞いたら、藤原は目を反らして黙ったんです。
ずっと何も言いませんでした。
それは、嫌いになるって事ですよね?」


私は話しながら情けなくなっていた。
なんでこんな辛い事を話さないといけないんだろう。


「それは、はっきりと言ったわけでは」


「違うなら違うって言わないんだから同じです!」


私は一気にまくし立てた。
葛木先生はフォローしようとしているんだろう。
でも違う。
私はまた涙が浮かんでくるのが、嫌で仕方がなかった。


「あの子は、不器用なんです」


だからなんだというのだろう。
私は酷く疲れていた。


「光明は、育ってきた環境が私が見ていても厳しいものでした。
光明の母はとても厳しい方で、光明が甘えたところを私は見たことがありません。

父親は長の仕事で忙しく、そしてまだ光明が小さいというのに、自分の側に居る相手を実の子供ではなく、自分の巫女を選びました。
小さいながらに沢山の事を背負い、誰かに甘えるなど無理だったんです。

だけど。
だけど、東雲さん、あなたには甘えているんですよ」


私はぼんやりとその言葉を聞いていた。
何をまた、私は特別みたいな言い方を、先生はするんだろう。

もう二度と、そんな耳障りの良い話しを聞いて、勝手に舞い上がるなんて事はしたくない。