月曜日の巫女




「実は、ここのところ光明の様子がおかしかったんです。
本人は隠しているのか、いたって普通に振る舞っているようでしたが。
東雲さんから、喧嘩した、と聞いて納得しました」


「あの、さすがにそれが原因では無いんじゃないですか?」


なんで私と喧嘩したぐらいで。
だって以前からもあったのに、今回だけそんな事を言うのだろう。
それとも私と喧嘩する度、様子がおかしかったりしたのだろうか。


「いいえ。東雲さんは光明にとって特別ですから」


優しくそう言った先生に、私の中で必死に押さえていた感情が一気に吹き上がった。


「違います!藤原は私は特別じゃないっていいました!葛木先生の早とちりだって!
それに、それに・・・・・・」


「東雲さん?」


私が急に大きな声を出して、葛木先生が途惑っている。
葛木先生は知らないんだ、藤原が巫女をどうおもっているのか。


「藤原、言ったんです、巫女は嫌いだって」


私はぎゅっと右手で左腕を掴む。
俯いていて先生の表情はわからない。


「それは・・・・・・」


「先生が本当の事、知らないだけです!ちゃんと本人から聞いたんです!
 私が巫女だとわかっ、たら、嫌いに、なるって・・・・・・!」


ぼたぼたと涙が落ちだして、私は必死にその涙を手で拭う。
あっという間にその手からも涙が落ちて、鼻水まで出てきて、喉が苦しい。
最後は途切れ途切れになりながらも、必死に言葉を出した。

部屋には私の押し殺した泣き声だけが響く。
それがやたらと自分の耳に届いて、余計に涙が出てくる。
気がつけば俯いた私の目の前に、ハンカチが差し出されていた。


「綺麗ですから。使って下さい」


私は目の前が涙でぐにゃりとしたまま、じっとそれを見た後、受け取って目に当てた。
先生が側に来て、私の背中をゆっくりとさする。
既に泣いているというのに、私の涙はまた酷く流れてきた。
泣いて泣いて、自分の身体が細かく震える。
息がなかなかできなくて、とても苦しい。
葛木先生は優しくさすりながら、そんな私にずっと付き合ってくれた。


しばらくして、先生がぽつりと話し出した。


「光明の家は、少し複雑なんです」


私は呼吸を整えながらそんな先生の言葉を聞く。


「光明が4歳の時に両親は別居して、今もそのままです。
そして、光明の父親、先代の長が今一緒に居る相手は、
長の・・・・・・巫女だった人です」


私は思わず横にいる葛木先生を見た。
先生は私に少し微笑んだ後、私の背中に当てていた手を離して、私の隣の椅子に腰掛けた。


「幼い頃からずっと、母親から、巫女は忌々しい存在と聞かされてきたんです。
父親の同居している相手がそうだと光明が知ったのは少し後になりますが。
逆に、私達他の者は、巫女の存在は尊いと教わってきました。
そうですよね、自分の仕える長を一番助けられる唯一の存在なんですから。
でも、ただの子供からしてみれば、そんな事を母親から聞かされ、
今父親と一緒に居るのはその忌々しい相手と知って、複雑だったと思います。
だから」


先生を少しだけ見る。
それに気がついたように、先生は私を見た。


「一人の人間として、巫女という存在に悩んでいるんだと思います」


私は呆然とした。
そんなの、好きになれる訳が無い。
だってその人のせいで、両親はバラバラになってしまったんだから。