「結局、私達は光明の罠にかかったという訳ですか。
あ、コウメイの罠となるとこう、凄く高度な作戦のように思えますよね?」


葛木先生が笑わせようとしてくれることが嬉しくて、私は自然と笑えた。

お互い、今日の待ち合わせについて確認したところ、葛木先生はあの日職員室に呼び出された後、部屋に戻ってきたら藤原に、


『先日迷惑かけた分、ちゃんと謝罪するほうが良い。
せめて食事でも奢ってこい。
土曜日に誠太郎が来ると東雲には伝えたから』


と言われたそうだった。
元々葛木先生は私に負い目もあったのだろう、その話をむしろありがたく思っていたらしい。

だが、私が約束していた相手は藤原だった。
最初はあの日の事があって顔を合わせづらいから、葛木先生を呼んだのかと思ったけれど、実際はあの一件より前に約束されていた。
ということは、藤原は私と葛木先生をデートさせるために、最初からこれを仕組んでいたという事になる。

私はどこまで先生に話すべきか悩んだが、とりあえず、藤原が来ると思っていたこと、その後に喧嘩してしまい顔もみたくないし、きっと来ないと思って行かなかったことを先生に話した。

以前から私と藤原が口喧嘩するのは珍しくなかったし、お互い意地を張って何日も口をきかないなんて事もあった。
葛木先生はそれを知っている。
こういえばいつものことだと納得してくれるはずだ。
だが私の話を聞いて、先生は何故かしばらく黙っていた。


「とりあえず、連絡先を交換しませんか?」


「はい?」


おもむろにスマートフォンを取り出した先生に、私は間の抜けた声を出した。


「今回は確かに色々行き違いがありましたが、やはり連絡が取れずとても心配しました。
ですから連絡先を知っていればこんな事も起きませんし、東雲さんも、何かあればすぐに私に連絡出来る方が安心出来ると思うんです」


ね、と優しく言われて、私はまた涙が浮かんでくるのを必死に堪え、素直に頷いた。




葛木先生と連絡先を交換したあと、たわいもないおしゃべりをする。
先生が私を落ち着かせようとしている事が、ただ嬉しかった。


「その、あまり、話したくはないのかもしれませんが」


しばらくして、葛木先生は言葉を選ぶように話し出した。


「そんなに東雲さんが無理するほどの喧嘩をした原因は、加茂君ですか?」


その言葉に私は俯いた。
先生はやはり気がついていたのだ、私の今の状態を。
確かに発端は加茂君の事だった。
でも、決定的な話しは違う。
どう答えたらいいのか、私は言葉を発せずにいた。