私はすぐに寮に戻り、制服のまま、ばたりとベットに倒れ込む。

この数日間、ずっと怯えたように過ごしていた。

会いたくない、何も聞きたくない。

その為にはただ逃げるしかなかった。


「疲れた」


藤原との一件から数日しか経っていないのに、緊張し続けていたせいなのか、悲しかったせいなのか、私は酷く疲れていた。

そして今日は、藤原が話しをしてくれると約束していた日だ。

どうせ来る訳もないし、こんなに逃げていて顔を合わせられるはずもない。

私はベットに倒れたまま、疲れて眠ってしまった。






ピンポーン、ピンポーン。
部屋にあるインターフォンが鳴っていることに気がつき、私は未だにだるい身体をゆっくりと起こす。
何か届け物だろうか。
私は入り口にいる人を確認しようと、もそもそとベッドから起きてモニターを見た。
そこには、何故か葛木先生が立っていた。
私は慌てて通話ボタンを押す。


「先生?!」


『あぁ良かった。寮にいたんですね』


心底ホッとしたように、モニターの向こうで先生は言った。


『待ち合わせの時間を遙かに過ぎても来ないので、体調を崩したのではと』


「待ち合わせ、ですか?」


『え?今日1時に待ち合わせだと聞いたのですが』


途惑ったような先生の声に私が途惑う。
一体どういう事だろう。
1時に約束していたのは藤原だったはずで。
あぁそうか。
段々と頭が回ってきたのか、何故こんな事になったのか、わかったような気がした。


「あの、少し話せますか?学校とかで」


私は先生に尋ねた。
寮に男性は原則入れない。
聞かれたくない話をするなら、それこそ学校の方が好都合だ。


『わかりました。私はいつもの部屋にいますから、ゆっくり来て下さいね』


私は、すぐに準備して行きます!と返すと、急いで出かける準備を始めた。
制服のまま寝てしまってシャツはしわになっているが仕方ない。
簡単にブラシで髪の毛を整え、私は部屋を出た。




まだ明るい校舎を早足で歩き、私は社会科準備室についた。
ノックして部屋に入ると、ふわりと良い香りが私を優しく包み込む。
そこには葛木先生が、お菓子と紅茶を用意して待っていてくれていた。


「ちょうどいいタイミングです。お腹は空いていませんか?」


優しく微笑む葛木先生を見て、急に涙が溢れてきた。


「どうしました?!やはり体調が・・・・・・」


「違うんです、すいません。ちょっと寝不足で」


私は口を手で隠して、少しあくびをするまねをする。
葛木先生は心配そうな顔で立ち上がろうとしたが、私は笑顔を浮かべ、大丈夫ですと言って椅子に座った。
それを見て、先生も納得したのか、私の前に紅茶を差し出した。

ずっと気を張っていたせいか、先生の優しさで涙が出そうになってしまった。
でもここで泣いてしまえば、何があったのか聞かれてしまう。
私は泣かないように、また必死に笑みを浮かべた。
紅茶から立ち上がる良い香りが、段々と私の心を落ち着かせる。
私はゆっくりとそれを飲みながら味わった。