目を開け、今自分が部屋で寝ていたことを理解した。
毛布から時計に手を伸ばし、時間を確認してみれば朝の5時前。
私は時計を元に戻すと、ごろんと眠る向きを反対に変えた。
夢の内容を覚えている。
驚くほどにはっきりと。
でも男の子の顔は全く覚えていなかった。
そして、今まで私が忘れていた夢の一部を思いだしていた。
こんな変化があったのは何かのせいだ。
これにはきっと意味がある。
そして思いつくのは昨日の藤原との一件だった。
「嫌わないで、か」
今嫌っている男性は特にいないはず。
加茂君は嫌いじゃなくて怖いと思っただけだし。
そう思って、ふと一人だけ顔が浮かんだ。
でもそれは、私が嫌われるのであって、私が嫌うのではないのだ。
「まさかね」
長いため息をついて、またごろりと寝返りを打つ。
あの後、泣くだけ泣いて、隠れていた部屋を出た。
もしかしたらどこかで藤原が待っていてくれるかも、何か連絡をくれるかも、なんて淡い思いも、どんなに待っても現実にはならなかった。
また1日が始まる。
私は眠れないとわかったまま、まぶたを閉じた。
やはりあれから眠ることは出来ず、教室に一番最初に登校していた。
もしかしたら手紙でも靴箱に無いかな、なんて思った自分が嫌になる。
いい加減現実を見ないといけないのに。
私は、ただぼんやりと席に座っていた。
「おはよう」
実咲の声に私は上を向いた。
どうやら気がつくと寝てしまっていたようだった。
「寝不足?酷い顔だけど」
机の上に鞄を置きながら、振り返り私の顔を見る実咲に、苦笑いで答えた。
「うん、なんか眠れなかったんだよね」
「もしかして藤原先生となんかあったの?」
「えっ?」
「いや、だって昨日相談に行ったんでしょ?
あまり良い解決にならなかったの?」
少し心配そうな実咲に私は口ごもる。
どうしよう、本当の事なんて言えるわけが無い。
「あ、えっと、実は会えなくて。
それに本当に単なる寝不足なの。
心配かけてごめんね」
実咲は私をじっと見た後、そっか、また今度話せばいいね、と笑った。
きっと勘のいい実咲は、私の嘘に気がついているのかもしれない。
でも深く聞いてこない実咲の優しさが、今の私にはありがたかった。
その日も加茂君は学校に来ていなかった。
急用のため実家に帰って今週は休むと、途中担任から話しがあった。
ざわつくクラスの中で、真相を知る私は一人、加茂君の事より藤原のことを考えていた。
もういやだ。
私の、今の一番の気持ちだ。
なのに藤原のことばかり考えている。
仲良くなったのに嫌われるということは、どんなに怖い事か。
実咲と塔子に突然嫌われたら、私はどうしていいかわからないだろう。
それと同じ事。
私は落ち込む理由をそういうことだと理解していた。
そして、藤原が追いかけても、声をかけてきてもくれないと分かった以上、本当に嫌われた可能性を考えるようになった。
もうどんな顔をして会って話せばいいのかわからない。
私は藤原に会うのが、怖くて仕方がなくなった。
藤原の授業中も出来るだけ下を向いて目を合わせないようにした。
鉢合わせしないかと、びくびくしながら教室を移動したりした。
一度だけ葛木先生と顔を合わせそうになったけど、何故か私はすぐさま踵を返して逃げてしまった。
そのおかげなのか、何事も無く土曜日の授業を終えることができた。