夢を見た。
長い長い木の廊下、横にはまっ白な沢山の障子。
綺麗に磨かれたその廊下を歩くと、目の前に大きな庭が広がった。
松の木、桜の木に、もみじの木。
大きな池には、美しい色の鯉が悠々と泳いでいる。
その池の畔に、一人の少年が立っていた。
平安時代の装束のような白い着物に烏帽子。
その後ろ姿に、なんだか見覚えがあるような気がした。
「東京はどうなることかと」
振り返ると、障子に陰が映り、奥の部屋で大人達が話しているようだった。
「段々と優秀な子供が産まれなくなったのは、我々にとって由々しき問題だ。
まぁ今回は、あの子のような逸材が産まれてくれて良かったが」
「やはり東京では血筋の問題か」
「もう少し京都の血も混ぜれば、出来の良い子が産まれるのでは?」
あはは、おほほ、と聞くに堪えない笑い声がする。
この嫌な感じに覚えがあった。
そうだ、以前もこんな嫌な事を聞いたんだった。
まだ池の畔に男の子は佇んでいる。
私は裸足のまま廊下から外に降りると、尖った石の上をじゃり、じゃりと音を立て歩く。
素足に、尖って冷たい石が刺すような痛みをもたらしたが、私はそんなことは気にもせず、その男の子に声をかけようと近づいた。
「お姉さん、ここの人じゃ無いね?」
突然後ろを向いたまま、私を見もしないでそう言われ、びくりと立ち止まった。
「だめだよ、帰った方が良い」
声変わりのしていない可愛い子供の声のはずなのに、何の感情も持っていないかのようだ。
でも、私を心配してこんな事を言っている。
この子はとても優しい子だ、私には何故かそれがちゃんと伝わってきた。
「ねぇ、少し話さない?」
私はこの子と話しがしてみたくなった。
顔が見てみたい。
この子は、どんな風に笑うのだろう。
「・・・・・・だめだよ。
お姉さんがここに捕らわれてしまうから」
「でも」
「ねぇ、お姉さん」
私の言葉をその男の子が遮る。
「僕が大きくなったら、また会いに来て」
「大きくなったら?」
「そう。僕はお姉さんと会った事を忘れるから、 大人になったら、この事を思い出させて」
「何で、君は忘れるの?」
唐突な少年の言葉に私は意味が分からない。
何故この子だけが今日のことを忘れないといけないんだろうか。
「お姉さんが、そんな力をもっているからだよ」
私は未だ振り向かない男の子の声に途惑った。
何故か最後の言葉は、とても寂しそうに聞こえからだ。
そもそも会えるといわれても、今この場所がいつなのかすらわからない。
また私が忘れるかも知れないのに探せるわけもない。
そして、私の力とはどういう事なのだろう。
「本当にまた会えるの?」
男の子の顔が少しだけ、こちらを向いたような気がした。
「お姉さん。未来の僕を、嫌わないで」
一瞬寂しそうな顔を見たような気がしたまま、私はふわっとその場から消えた。