「ねぇ、なんで加茂君は私を嫌ってるの?」


純粋な疑問だった。
出会って2日、何か彼の気に触ることをした覚えは無い。
だが、彼が陰陽師という関係で私を嫌っているのなら、
余計に理由が分からない。
私の疑問を聞いても藤原は黙っていた。


「もしかして巫女が関係しているの?」


段々私は不安になってきていた。
最初は巫女という存在に憧れすら持っていたのに、
京都の陰陽師だという加茂君から向けられたのは悪意だった。
もしかして巫女という存在は良くないのでは、
という心配が浮かんで来ていた。


「他に何か言っていたか?」


藤原は私の疑問には答えず逆に質問してきた。
そんな態度に私はむっとした。


「知らない!
それより加茂君早退したみたいだけど理由知ってるんでしょ?!教えて!」


私の言葉に、藤原は特に表情も変えない。


「京都に呼び戻されたんだよ。
 うちの学生に攻撃的な行動をしたことを京都側に伝えたからな。
 戻って早々こっぴどく叱られてるだろ」


平然とそう言うと藤原は紅茶を飲み出した。


「え、私の名前、出したの?」


私は驚いた。


「まさか。そのあたりはごまかしてあるよ」


「そんなんで向こうは騙されるの?
 そもそも加茂君、色々しゃべっちゃうんじゃないの?」


「騙すというか・・・・・・まぁ方法はあるんだよ。
加茂は簡単には話せない。それは問題ない」


あまりその方法を詳しく話したくないのか、
言葉を濁す藤原に、私はまた大人ならではのごまかしにむっとした。


「で、彼は本当は何しに来たの?」


私の質問に藤原は少し顔を上げた後、さぁな、と言った。


「いや、さぁな、じゃなくて。
さっきから質問ばっかりで私の質問は答えてくれないじゃない。
あの黒い邪気、放置してて良かったの?
また見つけた時、私どうしたら良いの?」


「何もしなくていいよ。放置だ、放置」


「でも悪いものなんでしょ?」


藤原は呆れたように私を見た。


「あんなのはな、日常に沢山あるんだ。
汚れみたいなもんだからいちいち気にしなくて良い。
だけど、変に近づくなよ?
お前は見えるだけで何も対処出来なんだから」


「でも、前回私が居たら消えたじゃない!」


必死な私を藤原はちらりと見ると、大げさにため息をついた。


「例えば・・・・・・火事があったとする。
お前はたまたまその火事が見えた。
俺はプロの消防士で既に消火活動をしていた。
で、そろそろ水が無いなって時に、
お前が水源を見つけて元栓まで走って水を出した。
そのおかげで消火が出来ました。以上」


そう淡々と言い切ると、何事も無かったかのように藤原は再度紅茶を飲んだ。
私はぽかんとその話を聞いていた。
え、私、元栓開ける人だったの?