「じゃ行こうか」


正門で、実咲、塔子、加茂君、私が揃い、
実咲のかけ声で学園前の停留所からバスに乗った。
一番近い大きな街までバスで40分くらいかかる。
私達は駅に着くと、若者向けのビルに入った。


「加茂君のお姉さんってどういうのが好きなの?」


「そうですね・・・・・・、可愛らしいものが好きみたいです」


私の質問に加茂君が悩みながら答えた。


「まずは予算。次ぎに日常使いのものか、
飾る物がいいか、それともお菓子とかか」


塔子がぴしりと言って私は、そうだね、とこくこくと首を縦に振る。
加茂君は少し考えた後、


「予算は2千円以内、日常使いのが良いです。
 その、持ってて欲しいので・・・・・・」


段々恥ずかしそうに話す加茂君に3人で顔を見合わせる。
どんだけお姉さんが好きなんだろう。
私はとても綺麗で優しい人なんだろうな、と勝手に想像していた。
そして可愛らしい小物が沢山置いてあるお店に皆で入る。
各々商品を見て回った。



『あ、これ可愛い』


私が手に取ったのはコンパクトタイプの鏡。
表面にはうるさくない程度にキラキラしたスワロフスキーがあしらわれ、
ピンクのお花が立体的についている。
私がそのコンパクトを開いてみると加茂君が横にいた。


「あのね、これ」


開いた鏡に私と加茂君が映る。
だが、その二人の映る間に見える店の外の通路に、黒いもやが映っている。
私は勢いよく振り向いた。
だが通路には人が通ってるだけで黒いもやは無い。


「東雲さん?」


「あ、ううんなんでもない。このコンパクトどうかな?」


「やっぱり女性はこういうのが好きなんですねぇ」


コンパクトを受け取った加茂君を見れば、少し口の端が上がっているように見える。
私はびくりとした。
何だか別人のような雰囲気。
出した声には少し笑いが含まれているように思えた。
もしかしてこれが隠している加茂君なの?


「ここの飾りも可愛いですよね」


加茂君にコンパクトの端を指さされ、私はそこに目線を向けた。
だが今度はその鏡に、はっきりと黒いもやが映っていた。


『これ邪気ってやつじゃないの?』


鏡を通してでも嫌な感じがする。
私は顔を強ばらせた。
これは放置していて良い物なのだろうか。
第一私は祓い方とか術なんてもちろん知らないし使えない。
いやあの時祓えたから、消えろと願えば消えるのだろうか。


「気になりますか?」


ぐるぐると考えていたら、耳元で小さな声がした。
私はその声の主にばっと振り向く。
そこには目を細めて薄く笑う加茂君がいた。


「見えてますね。
そうか、最初からアタリかな?」


面白そうに私を見る加茂君を目の前にして、私は動なくなった。
加茂君は私の方に少しかがんで顔を近づける。


「ねぇ、・・・・・・君が、長と一緒に居た子?
もしかして、巫女だったりする、とか?」


ゆっくりと確認するように加茂君が声を出す。
私は動くことも出来ず目を見開いた。

この人、やっぱり私を探しに来た人なんだ!
未だ軽く笑みを浮かべて、まるで見下したような表情をしている加茂君に、
私は怖くて声も出ない。