「東雲さん」


翌日朝、自分の席に座ると同時に声がしてそちらを向けば、
加茂君が俯きがちに立っていた。


「あ、おはよう」


「おはようございます・・・・・・。
その、昨日はありがとうございました」


「ううん、こっちも最後まで案内出来なくてごめんね」


ぺこりとお辞儀をしながら話す加茂君に笑いかける。
陰陽師だなんて言ってたし、猫被ってるなんて言うけど何もわからない。
ちょっと気の弱そうな転校生ってだけだ。


「あの、実はお願いがあるんですが」


「なに?」


今までのノートを見せて欲しいとかだろうか。
私はもじもじとしている彼の次の言葉を待った。


「放課後、買い物に付き合って頂けませんか?」


少し恥ずかしそうな加茂君の言葉にしばし固まる。
慌てて周囲を見れば、クラスメイト達がこちらを見てひそひそと話している。


「おいおい、藤原がやきもち焼くんじゃないか?」


近くにいた男子達が聞いていたのか、面白がって言ってきた。


「だから!違うって!」


昨日注意するよう言われたばかりなのに!
私は慌てて否定した。


「藤原?」


不思議そうな加茂君に男子がにやにやと近づく。


「英語の藤原だよ。
東雲がお気に入りで毎週月曜日の放課後デートしてたんだよな?」


「ちょっと男子!やめなよ」


面白がっている男子に私が、違うって!と必死に否定していたら、
クラスメイトの女子達が助け船を出してくれた。


「うちらの藤原先生に勝手に彼女作らないで」


私はこけそうになった。
そうか、私の為じゃなかったんだ。
思わず笑顔が引きつる。


「東雲さん、その先生とお付き合いされているんですか?」


「違う違う!
単に便利に使われてるだけ!」


真面目に聞いてくる加茂君に私は必死に否定した。


「みんな何言ってんのよ。
ゆいは別に好きな人ちゃんといるんだから。ね?」


突然現れた実咲は思い切りにやにやした顔で、私の肩をぽんと叩いた。
何を言うかと思えばそれなの?!もっと他の助け方無いの!
その言葉を聞いて女子が一気に寄ってくる。
え、そうなの?誰?!てっきり藤原目当てかと!
なんて、みんな一斉に興味津々に声をかけてきて、
私は恥ずかしさで倒れそうな気分になった。


「何やってるの、授業始めるわよ」


その声にみんなが見ると、一限目の先生がいつの間にか教卓にいて、
私達は慌てて席に戻った。


「救われたねぇ」


席に座ると、実咲が振り返って小声で私に話しかけた。


「出来れば他の方法で助けて欲しかった」


「思ったより、ゆいの好きな人ってばれてないものね」


今度は後ろから塔子があきれ顔で声をかけてきた。

そうだ、少なくとも私が葛木先生を好きなのを知っているのはこの2人だけだ。
でも放課後藤原の所に行く時、
葛木先生に会えるのが楽しみで向かっていたのは間違いない。
きっとしらずしらずウキウキしていて、それで藤原目当てだと勘違いされたんだ。
私はこれ以上誤解を生まないように、平然と居なくてはと心に誓った。