「東雲さんが巫女と確定した訳ではありませんが、
少なくとも光明の霊力を支える存在であることは認めますよね?」
「・・・・・・・」
葛木先生の静かな問いかけに、
藤原は無表情のまま言葉を発しない。
「ならやはり手早く補給させてもらう・・・・・・」
「誠太郎」
藤原が低い声で名前を言っただけで、葛木先生の表情が固まったのがわかった。
怖い。
ここにいるのはあの時の藤原だ。
「東雲」
低く、感情のこもっていない声。
まるで大きな熊の前にいるような圧倒的な何か。
私は身体全体が縛られるような感覚に襲われた。
「当分俺に二人きりになるような状態で接触するな。
あの日の話しも一切するな。
そして・・・・・・俺の心配はしなくていい」
無表情に静かに話す藤原がただ怖い。
でも。
身体が縛られたまま、
耳に注がれる藤原の命令に私は必死に抗おうとした。
ぐっと唇を噛みしめ手を握る。
「・・・・・・嫌」
やっと絞り出すように声を出した。
向かい合って座っている藤原の表情が少し崩れた気がした。
「また!またそうやって無理する!
私にできる事があるんでしょ?!
その・・・・・・痛いとか怖いのはやだけど、
やれることならするから!」
椅子から急に立ち上がって一気にしゃべった私を、藤原が驚いた顔で見上げている。
そうだ、先日もあったな、こんな事。
藤原は私をじっと見上げた後、軽く笑い出した。
「そうだな、痛いとか怖いのは嫌だよな」
急に藤原が取り巻いていた空気が普通に戻ったようで、
私はほっとして椅子にすとんと腰を下ろした。
横にいる葛木先生が私を驚いたような顔で見ていたかと思うと、眼を細めた。
「葛木先生、私、どうすれば良いんですか?」
「子供に変なこと言うなよ」
「わかっていますよ」
また二人で進める。
それも子供ってなによ。
私は頬を膨らませた。
「では握手、でどうでしょう?」
「まぁ妥当なところだな」
「握手?」
葛木先生の提案に、藤原は腕を組んで答えた。
「藤原と私が握手すればそれで済むんですか?
それで済むなら今までもそうすれば良かったのに」
「お前、そんなに話したことのない教師から、
毎週握手しましょうと言われてOKするか?」
「やだ。気持ち悪い」
気持ち悪いって、と藤原は傷ついた顔をした。
確かに今だから握手でも良いかと思えるわけで。