藤原光明。


私の学年の英語を担当している教師だ
ざっくばらんな性格で男子生徒にも兄貴分として人気があり、
顔もまぁ悪くないせいなのか、
女子生徒が職員室で囲んで騒いでいるのも見慣れた光景だ。
屈託無く笑うその顔は、24歳という年齢より遙かに幼くみえる。
本人は童顔を気にしているようだけど。



放課後になり友人達に冷やかされながらも、私は仕方なくの目的地へと向かう。
あぁ今日は早く帰りたかったのに。


「来てあげましたよ~」


英語教師室という名の藤原の自室のドアを軽くノックし、私は中に入る。


「おー、待ってた」


明日の授業の準備だろうか、
テキストやプリントを広げた机にむけていた身体を、
藤原は椅子を回転させてこちらを向いた。
あれ?昼見た時より顔色が悪くなってる気がする。


「いい加減夜更かし止めたら?今日の顔色、本当に酷いよ?」


「そうだなぁ、やめられたらどんなに良いか


そういうと藤原はため息をついた。


「仕方ないんだ、今レベル上げないと次のイベントが」


「このクズゲーマーが。あーもういいから黙って早く寝なさい」


クズ・・・とショックを受けたような顔をしたが、
椅子からふらりと立ち上がり、
一番奥にあるソファーに行くともそもそと横になる。
いつも通り一時間後に起こして、
というと既に用意してあった大きめのブランケットを頭までかぶり、
藤原はすぐに寝息をたてて眠ってしまった。
私はいつもの様子を見届けると、
真ん中にある広い机に勉強道具を取り出し授業の復習を始めた。

こんな事が始まったのは、
約2ヶ月前に行った鎌倉で行われた社会見学での事だった。
買い物タイムと言うことで実咲や塔子達と別れ一人うろうろしていたら、
小さな公園のベンチに藤原が真っ青な顔で1人座っているのをみつけ、
思わず声をかけた。
声をかけたのにあまり元気が無い。
もしかして熱があるのかと咄嗟に手を額に当てたのだが、
その時藤原は目を見開いて私の顔をまじまじと見たかと思うと俯いた。


「やっぱり誰か先生を」


「東雲ゆい、だったか」


「あ、はい」


授業は習っていたがそんなに話したことも無いのに、
名前をフルネームで覚えてくれていたことに少し嬉しい気分になった。


「すまない。体調が良くないんだ。少しだけ隣りに居てくれ」


と藤原は一方的に言ったかと思うと、
私の肩にもたれかかりあっという間に寝てしまったのだ。
寝息を立てながら思い切り寝てしまって、
今日の日のために用意した私の可愛い洋服にヨダレを落とされたことは、
未だに根に持っているけれど。