図書室や保健室、授業で使う各科目用の教室などを案内する。
加茂君は急に懐いたわんこのようだった。
俯いておどおどすることもなく、物珍しそうに色々な場所を見ていた。
「東雲さん」
そろそろ案内を終わらせたいけど、どう切り出そうか悩んでいたその時、
聞きたかった柔らかな声が聞こえた。
私は思わず、葛木先生!と、嬉しさがわかりやすいほど滲み出た声を出してしまった。
「ちょうど良かった。
委員会の件で聞きたいことがあるのですが」
私に話しかけた後、隣りに居る加茂君に葛木先生は笑顔を向けた。
「転校初日にもうクラスメイトと仲良くなっていたなんて。
安心しました」
「はい・・・・・・」
急に小声で俯いた加茂君に、
やはり人見知りが激しいのかなと私は思った。
「ではすみません、東雲さんをお借りしますね」
「え?」
私は突然そんな事を言った先生を驚いて見上げた。
「はい、失礼します・・・・・・。
東雲さん、ありがとうございました」
「あ、うん。またね」
ぺこりとお辞儀をすると、加茂君はすたすたとその場を去ってしまった。
私はそのやりとりに途惑って先生を見上げる。
「とりあえずこちらに」
そう言われすぐ近くの社会科準備室のドアを開けると私を中へと促した。
私が入ると先生も入ってきてすぐにドアのカギを閉める。
「奥の部屋に」
やっと意味が分かった。
私は奥の部屋のドアを開けた。
そこにはパイプ椅子を並べて寝転がっている藤原がいた。
「よぉ」
「何がよぉだ!」
藤原は起き上がると、ぼーっとした顔で片手を上げた。
私はそんな体調が良く無さそうな姿を見て、
思わず駆け寄って椅子に座ったままの藤原の頬を触りそうになった。
それを寸でのところで踏みとどまり、両手で思い切りその頬を引っ張った。
「お前!教師に向かってなんて事すんだよ!」
「うるさい!叩かれてないだけありがたく思いなさいよ!」
藤原は引っ張られた頬をさすりながら私を睨む。
私はそんな事に怯むことなく腰に手を当てたまま、藤原を睨みつけた。
最初、怒るより調子の悪そうな藤原を心配する方が勝ってしまった。
そんな自分にも腹が立つ。