「あの、質問が」

私の少し焦ってるような声を気にしないかのように、
藤原は少しきょとんとした顔をした。

「教科書持ってないじゃないか」

「だから放課後ゆっくり」

「悪い、今日も職員会議なんだ」

「え、今日も?!
というかいつになったら!」

私はヒートアップしそうになってしまい慌てて押さえる。
廊下で私達の横を通る生徒達が、
ちらちらこちらを見ているのに気がついたからだ。

「わかんない場所は、
昼休みにでも職員室に来れば教えるから」

私の反応を見ても藤原はいつもの屈託のない顔で笑いかけた。
職員室でと言うことは他の先生達がいる以上、
ようは話さないという事だ。
私は頭にきていた。
月曜日に話すといったのに。
その後も何も言わないで、
やっと聞いてみたらこれだ。
腹が立って、『この人陰陽師なんですって!』とか、
ばらしてやろうかとか馬鹿な事が頭をよぎる。
私は俯いた。
大人って、結局こうやって身勝手なんだ。

「嘘つき」

私は俯いた顔を上げ、思い切り藤原を睨んだ後そう言うと、
踵を返して一度も振り返らず足早に教室へ戻った。
何だか涙が出てきそうになる。
悔しい。
何だかとても悔しい。

「どうしたの?」

どかりと席に座った私を、
後ろの席の塔子が声をかけた。

「なんか頭に来て」

「喧嘩するほど仲が良いってやつじゃないの?」

前の席の実咲が振り返り、
面白そうに茶々を入れる。

「そうじゃないよ。
なんか藤原も嫌な大人なんだなって思っただけ」

そう言って机に突っ伏した私を、
塔子と実咲はきょとんと私を見ているようだった。


日曜日になっても藤原達からなんの連絡も無かった。
夜になり時計を見る。
先週はこの時間に葛木先生と出かけ、
あの出来事があったことを思い出す。
しかし一週間も経つと、
自分の見聞きしたことが本当にあったのか、
自信が無くなってきていた。
せめて幽霊とか見えたり、
式神でも扱えたなら自分に起きたことが現実だったとわかるのに。
しかし現実は藤原達と話しも出来なければ、
自分には何の変化もない。

「今日もあんな事してるのかな」

ベットでごろごろしながら浮かぶのは藤原の顔。
無表情であんな大変な事を今日もしているのかと思うと、
私も誘ってくれたら良かったのに、
なんて思ってしまう。

もう一度あの非現実な時間を過ごしてみたい。
また巫女って言ってもらいたい。

偶然手に入った特別な世界が夢だったのではと私は心配になった。

「藤原達の連絡先なんて知らないし」

スマホを見たってメールが来る訳でもない。
でももしかしたら今日も凄く疲れたら私を頼ってくれるかも、
という期待が膨らんだ。
そうだ、今度こそ会えるかも知れない。
私は希望がもてたような気がして眠りについた。