やっと放課後になり、私は実咲と塔子に、
葛木先生に質問して帰るから、と言って教室を出た。
今日の昼は月曜日だというのに藤原が来なかったため、
二人は、痴話げんか?離婚の危機?
などと言って昼休み中私をからかって遊んでいた。
内心『放課後会う約束しているから来ないの』、
なんて事を言いそうになるのを必死に押さえていた。
今まで嫌がっていたのに急に楽しみにしてるだなんて、
それこそ二人にとってはからかう口実になってしまう。
何とかそれを乗り切り、英語教師室に直接行くとも言えないので、
申し訳無いけど葛木先生を利用させてもらった。
この学校が良いところの1つは、
先生に質問をしに行くことがおかしいと思われないことだ。
中学の時そういうことをやっていたら、真面目、優等生ぶっちゃって、
などと陰口を言われ、悲しいやら悔しいやらで仕方がなかった。
そのうち私は質問自体をすることをやめてしまった。
純粋に質問したいだけなのに、
それがおかしいと思われていたことが、
ここではむしろ推奨され、ごく普通の事なのだ。
なのであちこちで先生と生徒が議論していたり、
生徒同士で教え合ったりしているこの学校はとても素敵であり、
今回は申し訳無いけど利用させてもらった。
私は走りそうになる気持ちを抑え、
やっと英語教師室の前につき軽く呼吸を整えた。
「失礼しまーす」
二回ドアをノックした後ドアを開けた。
しかしいつもなら出迎えてくれる藤原は、そこには居なかった。
「あれ?」
中に入って藤原のデスクの上を見れば、手書きのメモが置いてあった。
--職員会議で終わる時間がわからないので、
質問のある生徒は明日来なさい。藤原--
と、綺麗な字で書かれている。
私はそれをじっと見た後、
おそらく私に向けてのメッセージだと理解した。
ようは今日は話しを聞けなくなったのだ。
それなら葛木先生を捜そうかと思ったが、
藤原が居ないと話さないとあれだけ言われた以上、
二人揃わなければ無理だろう。
もしかしたら戻ってこないだろうかと少しの間部屋にいたが、
結局戻ってきそうにもないので、
心底がっかりしながら私は部屋を後にした。
翌日も放課後行ってみたがやはり居なかった。
藤原から何か声をかけてこないかとそわそわしていたが、
藤原も葛木先生からも何も無い。
私は金曜日さすがに限界になり、
藤原の授業が終わった後、
教室を出て行く藤原を急いで追いかけ呼び止めた。