部屋に戻り時計を見る。
いつもの起床時間を考えたら、もうそんなには眠れない。
いや今は眠気など無かった。
あの後、藤原と別れ、葛木先生が寮まで送ってくれた。
本当の事を話して欲しいとお願いしたが、光明がいる前じゃないと話せないと、私の必死の質問に一切答えてはくれなかった。
絶対に眠れないと思っていたが、気がつけば寮の前で葛木先生に声をかけられるまで爆睡していたようだった。
シャワーを浴びてベットにもぐっても、思い出すのはさっきまでのこと。
見たこともないお祈り(邪気払い、というらしいけど)を見て、
藤原が陰陽師のトップで、葛木先生も陰陽師で、
私がもしかしたら藤原の唯一無二である巫女、
というものである可能性があること。
はっきりいって私は興奮していた。
平凡だった自分が、突然特別な世界に招待され、
そして貴女はその中でも本当に特別な存在かもしれない、なんて言われたのだ。
それも『巫女』、なんて素敵な響きの言葉が自分にむけられて嫌な気分になる訳が無い。
私は自分の顔がにやついているのがわかった。
ベットにもぐり、枕に顔を埋めながら足をばたつかせる。
もしかして夢だったらどうしよう。
急にそっちの方がこわくなってきた。
そういえば霊感が強いとか葛木先生に言われたことを思いだした。
霊感が強いとその辺を歩いている人間と霊の見分けがつかないなんてことを聞いたことがある。
私は寮の食堂が開いたらすぐに行って、確かめたい気持ちで一杯だった。
朝7時に開くと同時に食堂に行くなんて初めてだったが、
思ったよりも生徒は既に食事を受け取るために並んでいた。
じっと人を見る。
あっちも、こっちも。
でも、何も感じないし、私には全員人間にしか思えない。
昨日は着いてから、違和感とかオレンジの光とかが見えたのに。
もしかして夜しかダメなのだろうか、
などと考えていたら声をかけられた。
「なにやってんの?きょろきょろと」
そこにいたのは不思議そうな顔で覗き込んでいる実咲だった。
そういえば実咲は朝練で朝は早いんだったっけ。
「あ、いや、この時間に来たの初めてだったから」
思わず少し不自然な顔で笑ってしまう。
そんな私を実咲はじろじろと見た後、そっか、と言い、
朝食のメニューをどれにするか尋ねてきた。
私はやりすごせた事にホッとしながらも、
特に自分が変わっていないことにがっかりとしていた。
でも今日の放課後になれば話が聞ける。
私はそれだけでいつもなら憂鬱な月曜日が、
初めて楽しみに思えたような気がした。
英語の授業の時間を楽しみにしたのも初めてだったと思う。
私はどきどきしながら、
黒板に向かい説明する藤原をじっと見ていた。
しかしびっくりするほどいつも通りで、
当ててやるなんて言ったのに、
私が当てられることは最後まで無かった。
そして一度も目線が合うことすら無く、
授業は終わった。
私は拍子抜けしたような気分でいた。