月曜日の巫女



「長は巫女自身が否定する事は出来ないんですよ。
だから私に命じてるんです」

「でも私がそれだと決まった訳では」

「もし記憶を封印しようと試して出来なければ、それが巫女である証になってしまうからですよ」

「誠太郎!」

苛立った声をあげる藤原をよそ目に、私は静かに説明する葛木先生をじっとみていた。

そうか、だから私に藤原は何もしないんだ。

「命令だ、記憶を封印しろ」

「だから待ってってば!」

再度大きな声で言う藤原に、私も負けじと声を上げた。

「お前の指図はうけない」

「葛木先生より藤原が偉いのはわかった。
でも私と先生達に上下はないじゃない!」

「俺たちは教師だから上だ!」

「何それ!そういう偉そうな気持ちでやってた訳?!」

「教え導くのが教師の存在だ。
未成年の学生ならなおさらだ!」

「なら本当のこと教えてよ!
一方的にそっちの持論を押しつけないで!」

「お前はなんでそう生意気なんだ!」

「うっさい!藤原のくせに!」

ぎゃぁぎゃぁと言いあっていたら、ぶっ!と笑い声が聞こえた。
二人してそちらをみれば葛木先生が口に手を当て肩を震わせて笑っていた。

「葛木先生・・・・・・」

「すみません、本当に仲が良いな、と」

「「どこが?!」」

「ほら」

同時に同じ言葉を葛木先生に発してしまい藤原と顔を見合わせる。
急に何だか気恥ずかしくなった。

「教師としてなんて言うのなら、
それこそ東雲さんの意志を無視するのはどうかと」

「おまえねぇ・・・・・・」

楽しそうに声をかける葛木先生に、藤原はため息をついた。

なんとなくいつも見ていた二人に戻ったような気がして少しだけホッとした。

「ねぇ」

私は藤原に声をかける。

藤原は何か諦めたように私を見た。

「とりあえず全て話してよ。
それから封印するか決めちゃだめ?」

「そもそも全ては話せないし、記憶に残ることが増えれば増えるほど封印しにくくなるんだ」

「なるほど。
じゃぁその時は再度考えるって事で」

「お前なぁ」

藤原は額に手を当てて盛大にため息をついた。

「私は、今のため息ついてる藤原の方がいいよ。
さっきまでの無表情な藤原より遙かに良い」

私の言葉に驚いたように藤原は目を丸くして私を見た。

そうだ、最初会った時の無表情で感情を押し殺した冷たそうな藤原より、学校でいつも見ていたダメな藤原の方が遙かに良い。

これは本心だった。

「そうか・・・・・・」

藤原はそういうと俯いてしまった。
もしかして凹んでしまったのだろうか。

不安げに葛木先生を見れば穏やかに笑っている。

「とりあえず」

藤原は顔を上げると私をじっとみた。

「さすがに眠いだろ」

「ハイになってるのか眠気とかすっ飛んでよくわかんない」

「そうだろうな」

「明日藤原の授業あるよね。
寝てていい?」

「俺も毎回睡眠不足でも授業するんだ、我慢して起きていろ。
せっかくだ当ててやる」

にやりと笑われ、私は思わず頬を膨らませた。
でもじわりと嬉しさがこみ上げる。

あぁいつもの藤原だ。

「もう月曜日だな」

藤原は空を見上げながらぽつりと呟いた。

「・・・・・・明日、いつも通り放課後手伝え」

ぶっきらぼうに言ったかと思ったら、藤原は私を向いて、笑った。

それは私に話してくれるという事だとわかった。
私の気持ちを潰さずに話すことを選んでくれた事に、私はとても嬉しくなった。

でもそんな気持ちは教えないかのように、私はわざと仕方なさそうにため息をついた。

「そんなに言うなら仕方がないなぁ。
あ、葛木先生、明日のお菓子は思い切り甘いのが良いです」

「わかりました、腕によりをかけましょう」

そんな私の言葉に、葛木先生は嬉しそうに答えた。

「嫌なら来なくていいぞ」

「来て欲しいなら来て欲しいって素直に言えば良いのに。
良い歳してひねくれてるなぁ」

「お前なぁ」

呆れた声を出した藤原と思わず顔を見合わせて笑った。

気がつけば真っ暗だった空が段々と白み始めている。
私は助手席から外に出ると、
三人でその淡い光の差しだした空を見上げた。