月曜日の巫女




「東雲」


低い声がずん、と身体に響いた。

藤原の声だとわかるのに、でも違う。

なんて低くてぞくりとする声なんだろうか。
私はドアに手をかけたまま固まった。

足音が近づき、助手席のドアに手が伸びたかと思うと、ゆっくりとドアが開けられた。
私は手を離し、呆然と見上げる。

そこには外灯の光を背に浴びた神主のような帽子と装束を着た藤原が立っていた。
私は何だか神々しくそれが見えながらも、無表情に真っ直ぐに私を見るその眼に怖さを覚えた。

「今日の記憶を封印しろ」

近くに来た葛木先生に低い声で藤原は言った。

「ですが!」

「やれ」

「ちょ、ちょっと待って!」

私の名前を呼んだのに。

その後私を無視してそんな事を言い放ったことに驚いた。

「記憶を封印ってなに?!」

「すぐに終わる。
お前は今まで通り普通の高校生として過ごせばいいんだ」

未だ無表情のまま淡々と話す藤原が怖いと思いつつも、段々腹が立つ方が大きくなった。

「あのねぇ!私は何がなんだかわかんないの!
やれ陰陽師だの、藤原を助けて欲しいだの、
禍々しい黒い煙やら唐突に経験して!
葛木先生は理由話すって約束したの!
勝手に藤原が反故にしないでよ!」

私は必死にまくし立てた。
何だか訳が分からなくていらいらする。

「まだあまり知らないなら好都合だ。
封印しやすい」

藤原はまた葛木先生を見て言った。

私が目の前にいるってのに!

私は思わず側に居る藤原の装束の袖に手を伸ばし強く引っ張った。
突然の事なのか、驚いて藤原がよろめいたのを私は気にせずにそのままもっと引っ張っぱる。

いい加減ちゃんと私を見てよ!

藤原は私の座る助手席の前にがくりとひざをつき、私のすぐ前で呆然と見上げている。

ついさっきとは目線が逆転していることなど、私は気がついていなかった。

私は席に座ったまま、上半身を外に向け藤原と向かい合う。

私は途惑った顔の藤原の頬にゆっくりと両手を伸ばし、
そっと包むように触れた。

藤原が目を見開いて私を見ている。
何故かそんな顔に笑いがこみ上げてきた。

「やっぱり冷たい。
ねぇ、何でそんなに心を押し殺してるの?」

思ったより穏やかに私は話していた。

だって伝わってきたんだもの、藤原の私を守ろうとする必死さが。