こんな暗い場所で一人になるなんて怖い。
「いえ、私は車の外にいるだけです。
すぐ側に居ますから。
ですから少しの間だけ中にいて下さい」
また言い切られ、私の返答を聞くこともなく先生はドアを閉めた。
本当になんなのだろうか。
全て葛木先生に振り回されっぱなしのような気がする。
先生と待ち合わせしてたった数時間の中で、
本当に色々な事が起きたけれど今も実感が無い。
第一ここに呼ばれたのがなんで私なのか。
藤原と接して考えついたのが、
輸血みたいに藤原の血液が珍しくて私がたまたま同じとかそういうものなのではないだろうか、ということだった。
いつもこういう仕事で貧血になる藤原を、
もしかして私がしらずしらず血を分けていた、とかなら、
私が倒れた理由もわかる気がする。
本当に血液を渡している訳じゃないとしても一番納得できるパターンだ。
考え込んでいたら外から声がして助手席の窓から外を見る。
車の後ろの方にいつのまにか装束姿の藤原と葛木先生がいた。
そして葛木先生が深々と藤原に頭を下げた。
ここからでも藤原の表情がわかる。
それは学校では見たこともない、
別の人のように思える表情とたたずまいだった。
やっと葛木先生が頭を上げ、
何やら話しているのかと思ったら大きな声が聞こえた。
おそらく藤原の声だ。
私は思わずびくりとしたが、
車のドアが閉まっていてよく聞き取れない。
私はそっと気づかれないよう助手席のドアを少しだけ開けた。
「あれだけ言ったことを忘れたのか?!」
「私はこれが従たる者として当然の行為だったと思っております」
「あいつが一族の者にばれればどうなるのかわかってやったっていうのか?」
「そういう事が無いよう配慮致しましたが、何分不測の事態が起こりまして全く知られていないとは断言致しかねます」
「お前、わざとやったんじゃないのか?」
「意図的に知らせるつもりはありませんでした。
しかしこうしなくては貴方様は消耗されるばかりです。
それは看過できません」
呆然とした。
いつも学校では藤原を弟のようにたしなめたり面倒をみているようだったのに、
ここにあるのは完全な主従の関係だ。
葛木先生はただ静かに藤原に答えている。
圧倒的な強さを醸し出している藤原の前では、葛木先生の方が下なのだ。
そこにいるのは私の知る藤原ではない。
なんだか怖い。
でももっと知りたい。
私はもっと話しを聞こえるようにしようとドアをもう少しだけ開けた。