なんという禍々しさ。こんなものを最前列一人で藤原は戦っていたんだ。
それを凄いと思うと共に、後ろで沢山並ぶ人達に怒りのようなものを覚えた。
そんなにいるんだからもっと藤原の分も手伝えば良いのに。

やれないなら私がやるしかない。

この場にいることで余計に私の中でやる気が出てきた。
少しヤケも入っているけど。
私は手に集中し、暖かなものを藤原に送るようなイメージをする。
そう、さっき葛木先生が私にしたみたいに。

ゆっくり。
ゆっくり。
落ち着いて。

はっきりいってやっていることに現実味を感じていない。
でも今はやれることをしなきゃいけない。

気がつけば藤原がまとう光が強くなっている。
ゆっくりとそして濃密に、光がいくつも重なり力が膨らむ。


『いける!』


思わず叫んだ。
まるでシンクロするように同時に藤原が放った言葉で、目の前の黒い邪気は一瞬で四散した。






「東雲さん!東雲さん!!」

「・・・・・・あれ?」 

目の前には何故か葛木先生の顔があった。

「大丈夫ですか?!意識を飛ばしていたようですが」

「え?」

間の抜けた声を出しながら、自分が葛木先生の腕の中にいることがわかり、
びっくりして先生を見上げた。

「途中で倒れそうになったので。
大丈夫ですか?
立てますか?」

「大丈夫、です」

ゆっくりと腕の中から解放されながら、
何か身体がふわふわした感じがして変な感じがする。

「光明の隣に居てくれたのですね、
ありがとうございました。」

「私、瞬間移動でもしたんですか?」

「いえ、意識だけ飛ばしたんです。
ですので身体はこちらに。
しかし初めてであれだけ意識を飛ばせるとは驚きました」

「そう言われてもよくわからなんですが。
なんかもう何でもありですね」

呆れ気味に言う私に先生は小さく笑った。

「歩けますか?
帰りながら、あ、ちょっと待って下さい」

そういうと先生はポケットからスマホを取り出し、画面を見た後、私から離れた。
少し離れた所で葛木先生は電話をしだしている。

私はまた丘の方をみた。
人が慌ただしく動いているが藤原がどこにいるかはわからない。

「月曜日の体調不良はこのせいだったんだ」

あの禍々しい邪気。
あんなのと戦ってたら体調を崩すのは無理もないだろう。
こんなことを毎晩していたりするんだろうか?
まさか全て藤原が中心でやっていたりするの?

やはり疑問だけが増えていく。
わかったことのほうが少ないのではないだろうか。

「お待たせしました。
戻りましょう」

ふいに電話を終わらせた葛木先生に声をかけられ、私は先生を見る。

「これから全て話してくれるんですよね?」

「すみません、その約束は守れないかもしれません」

「え!どうしてですか?!」

「とりあえず車に戻りましょう」

有無も言わせぬ言い方に、私は黙るしかなかった。

こういう時大人はずるい。

私はどうすれば全て答えて貰えるのか、もやもやとしながら先生の少し後ろを歩いた。

「ちょっと中で待ってて下さい」

「え、私一人になるんですか?」

車のある場所までつき、助手席のドアを葛木先生が開けてくれ私がそこに乗り込んだ後、先生がそんなことを言い出した。