「特に作法とかないんですね?
勝手にやっちゃっていいんですね?」


「はい。東雲さんの好きなように」


穏やかに返され、私はまた丘の方を向く。
双眼鏡が無いから藤原の身体すら認識できない。

でも、なんとなく藤原の光なのかな、というのは認識できた。
だって藤原の光は強くて、一番綺麗に思えたから。


『ようは応援すれば良いんでしょ!』


私は冷静なような、でも少しやけになった気分で、拝むように両手を合わせる。
そして目を閉じた。

『えーっと、藤原頑張れ!藤原頑張れ!とにかく頑張れ!』


まるでスポーツの観客席で応援するような勢いで私は繰り返した。
目を閉じているはずなのに、段々まぶたの向こうに光が見えてきた感じがする。
もしかして祓うのが終わったのかもと目を開いた。


『あ、れ?』


目の前にはさっき双眼鏡で見た祭壇。

驚いて横を向き、その下に人が座っているのがわかった。

何となく嫌な予感がして斜め下にいる人物を見れば、藤原が正座し手を合わせ何か呪文のような事をずっと言いながらも、目を見開いて私を見上げている。


『もしかして・・・・・・・見えてる?』


思わずしゃべったら、もの凄い目で睨まれた。

何で見えていて聞こえていてその上怒っているんだろうか。
見たこともないほどの怖い顔で睨まれて、一気に凹みそうになった。
せっかく応援しにきたのに。

ぶわっ!と黒い煙がまた広がり、私はびくりと煙と藤原を見る。

既に藤原は私を見ることもなく必死に何かを唱えている。
じわりじわりと広がろうとする煙を見る。
禍々しいというのはこの黒い煙みたいなものに言うのだろう。
息をするのも嫌になるほど、空気を、その場にあるものを穢していくのがわかった。
こんなもの広がったらまずいに決まってる。


私は覚悟を決め藤原が正座している横に私はすとんと座ると、足を整え藤原と同じように正座をする。
そして、その左肩に私の右手を伸ばした。
びくり、と藤原の身体が反応したのがわかった。
もしかしたら私はここにテレポーテーションとかしているのかもしれない。
もう何でもありな気分だ。

まるで神社の宮司さんのような綺麗な着物を着た藤原の肩に手を置いて、真っ直ぐに前を向く。


『早く終わらせて、帰ろう』


私の言葉に、藤原が小さく頷いたのが視線の端に見えた。