「まずいですね」


「何がですか?」

「押されてる」


私もまた丘の方を見る。確かに何かおかしい。
じわりじわりと真ん中にある黒い煙のようなものが広がっているように見える。


「先生、あの黒い煙、広がったらまずいものなんですよね?」


「邪気ですから。
彼らはそれを祓うためにずっと祈祷をしているのですが、やっぱり・・・・・・」


「やっぱり?」


言葉を続けない先生を見る。


「光明の調子が良くないせいで押されているんだと思います」


「もしかしてあの日から体調崩したままなんですか!?」


私が倒れた日、確かに藤原は酷い顔色だった。
あれから一週間近くなるのにまだ良くないままだったなんて。
学校で何度か会ったけどそんなようには見えなかった。
もしかして気づかれないようにしていたんだろうか。


「それで、貴女に助けてもらいたくて来て頂いたんです」


先生は私の方に身体を向けると、神妙な面持ちでじっと私を見た。


「え?」


「お願いです、光明を助けてもらえないでしょうか」


再度、お願いします、と突然頭を下げられ、私は驚いた。


「せ、先生!やめてください!
助けるってそもそも私に何が出来るって言うんですか!」


先生は頭を上げると断言した。


「いえ、貴女にしか光明を助けることは出来ないんです」


強い言葉で言われ、私は思わず一歩下がりそうになった。
丘の方を見れば、さっきより黒い煙の色が濃くなり、範囲も広がっている。
オレンジ色の光が必死にそれを押さえようとしているのもわかる。

けど。

今起きていることは現実なんだろうか。
藤原が体調悪いのを助けただけで、私が倒れただけで、そんな事で陰陽師だの、映画で観るような服装の人達や祭壇やら、突然見えるようになった光や。

そして最後には助けてくれ、君にしか出来ない。

唐突に沢山の情報を与えられ、そしてそんな事を言われて、私には何が何だかわからない。

私は思わず頭を抱えその場にしゃがみ込んだ。