「見えますか?」
「はい・・・・・・人が沢山いるみたいですが」
「それだけですか?」
まるで試すかのように聞こえてカチンときた。
何もかもがさっぱり分からないっていうのに。
「他に何があるんですか?というかほんと何なんですか?!
さっぱりわかんないです!」
私はさすがに苛立ってきていた。
質問するな、でもわかるな?なんて身勝手にもほどがある。
こっちはただの高校生で訳も分からず引っ張られてきたのに。
「すみません。東雲さんが怒るのも当然ですよね」
急に謝られてて思わず、いえ、なんて答えてしまった。
「でももう少し私の我が儘に付き合って下さい。
両手を出して貰えませんか?」
そういうと葛木先生が手のひらを上にした状態で両手を出してきた。
不審そうに先生を見れば促すような視線。
私は少し考えた後、おずおずと両手を先生に重ねた。
「目を瞑って。私の手の温度を感じて下さい。
呼吸はゆっくりと。
私が言うまで目は開けないで」
いつもの柔らかな先生の声よりも少し低い声。
私は言われるがまま目を瞑る。
不審がっているのに何かわかるなら試したい自分がいる。
先生と手を重ねるなんていつもの私なら恥ずかしいはずなのに何故か冷静だった。
じわり、と先生の手の温度を感じていたら、何か葛木先生が声を出している。
お経だろうか。
しまった!もしかして私、怪しい団体に誘われていたのかもしれない!
ニュースでもそういうのを見てるのに!
私は急に冷静になり、慌てて目を開け手を離そうとした。
なのに出来ない。
気持ちはとても焦っているのに、身体に熱いものが流れてくる。
そして葛木先生の声が心地いい。
私はその気持ちよさに流されないよう必死に抗った。
『いや・・・・・・。嫌!!!』
バチリ!とスパークしたように手が離れ、
気がつけば一気に目も開いていた。そして目の前には尻餅をついて呆然と私を見上げている葛木先生がいた。
逃げるなら今だ!私はその場を離れようとした。
だがその時、目の端に丘の方から見たこともないオレンジの光が見えた。
さっき見ていた松明の明かりなんかじゃない。
私は思わずそちらを向いた。