「もしかしてこのマフラー、お値段高いとか?」
「さぁ?値札見ないで買うから知らん」
「・・・・・・え?」
ぽかんと口を開けたまま固まる。
値札見ないで物を買う人がいるなんて話しは聞いたことがあったけど、やっぱり世の中には存在するんだ、それも目の前の人がそうだなんて。
言葉を失っている私を見て、藤原は呆れたような顔をした。
「あのなぁ、マフラーが百万とかする訳無いんだし、行き着けてる店がどれくらいの価格の物を置いているかはもうわかってるんだよ」
いやいや、なんで百万?十万円台飛ばすの?!
色々買った物の金額がわからないで支払えるものなの?!
だめだ、藤原って金銭感覚が庶民じゃないんだ。
「そっか。
藤原の奥さんになる人、お嬢様じゃないと無理そうだね・・・・・・」
無理だ。私はこの点からいっても無理なんだ。
私とは遙かに金銭感覚が違いすぎる。
陰陽師の世界では偉い人だと言う事を忘れていた。
きっとそういう人達だとこんな事も普通なのかも知れない。
まさかこんな所でも私は無理なのだと突きつけられるとは思わなかった。
「お前、なんか色々勘違いしてないか?」
「うん、藤原が庶民じゃないってのはわかった」
私の言葉に、藤原がうーんと悩んだような顔で腕を組んだ。
「まぁ確かに同じ年代からすれば稼いでいる方かもしれないが、別に散財してる訳じゃ無いし、カップラーメンも食うぞ?」
なんでここでカップラーメン・・・・・・。
でも考えて見れば、いつもぐったりするほどあんな恐ろしい陰陽師の仕事をしているんだから、それだけ稼いでいるのも当然なのかも知れない。
でも。
「お金も大切だと思うけど、それよりは仕事押さえて身体を大切にした方が良いと思うよ?」
藤原はきょとんとすると、困ったような顔で、はは、と軽く笑った。
「そうだなぁ、そうできると良いんだけどな」
そういうとゆっくりと私の頭を撫でだした。
「出来ないの?」
「昔話した消火の例で言えば、俺は消火の経験も能力もそれなりにあるが、ほとんどのヤツが見習いに近い。
火は今すぐ消さないといけない。
待ってなんかくれないからな。
そうすると出来るヤツらがすぐ動かなければいけないし、そういう人間の負担が自動的に増えるんだよ。
まぁ俺にはそもそもやらない、という選択肢は無いけどな」
そう話す藤原の表情が少し寂しそうに見えて言葉が出ない。
そうか、陰陽師の人達は仕事をするには能力が必要で、でも他の人があまり使えないのなら、もうそれは藤原や出来る人達が動くしか無いんだ。
そして藤原は長である以上、嫌だ、と言う事も許されないんだ。
私達はそういう人達に助けられていることも知らずに。
私は手を伸ばし、目の前のコートをぎゅっと掴む。
そしてしっかりとその人の目を見た。
「私は藤原の味方だよ?
陰陽師の世界はよくわからないけど、藤原がいろんな事を一人で背負うのも背負わされるのもおかしいと思う。
私は祓うとかそういうの出来ないけど、私にできる事はするから。
だから、そんなに寂しそうな顔、しないで」
最後はなんだか目を合わせられなくなって段々と俯いてしまった。