「わぁ!」
思わず声が出てしまう。
そこには黒い海の先に、キラキラ光る東京の夜景が広がっていた。
良く見ると、赤い東京タワーや色々な色に変わるスカイツリーまで見える。
私達はもっと海に近い広場へ行く階段を降り、左右に人の居ない場所まで行くと柵にもたれかかりながら、対岸の夜景を見た。
すぐ下には黒い海が時々光を反射して広がっている。
「ここは初めてか?」
「うん!」
「そうか」
「藤原は来たことあるの?」
「あー・・・・・・」
「ふぅん」
ばつが悪そうに視線をずらした様子からして、デートで来たことがあるというのはしっかりわかった。
面白くない。
きっと婚約者や今までの彼女とディズニーランドや海ほたるや、色々なとこに出かけたのかと思うと本当に面白くない。
その人達にはもっと甘えたり、私には見せない、格好いいところを見せたりするんだろう。
私だけ知ってるつもりでいたけど、考えて見ればそんなはずがない。
ここに来て嬉しかった気持ちが、どんどんしぼんでいく。
「あーなんか食うか?」
「お腹減ってない」
「じゃぁなんか飲むか?」
「いらない」
自分でも子供じみてると思った。
藤原が気を使って言ってるのもわかったけど、心の中のいじける気持ちがむくむくとして収まってくれない。
自分で自分が嫌になる。
好きな人がせっかくイブにこんな場所に連れてきてくれたのに。
ふいに首に何かがかかり、藤原を見る。
「寒いだろ、巻いとけ」
そういうと、マフラーを私の首元で軽く縛った。
見てみれば藤原の首元にあったマフラーが無い。
自分の首に巻かれたものがそれだとわかり、急に顔が熱を持つ。
暖かい。
藤原の暖かさが自分に渡されような気がしてしまう。
結ばれたマフラーはすぐ口元近くまであって、ふわり、と香りが漂った。
そうだ、さっき膝に座っていた時も軽く香ったのと同じ香りだ。
不思議と良い香りで、凄く藤原を側に感じて恥ずかしい気持ちになる。
「藤原って何か香水つけてるの?」
「いや?なんか臭いか?」
「ううん、何か良い香りがしただけ」
「あー整髪料かもしれないな。匂いはつけないようにしてるんだが」
困ったように頭を掻いた藤原を見て、何故かさっきまで沸き上がった嫌な気持ちがすうっと消えていく。
首元が暖かい。
時折感じる香りがほっとさせる。
ん?考えて見たらこのマフラー、女性からプレゼントでもらったとかじゃないんだろうか。
「このマフラー、もらい物だったりする?」
「自分で買ったヤツだよ。自分で身につけるモノは自分で選びたいし」
「買い物好きなんだ」
「嫌いだな。
面倒なんで行きつけの店で簡単に済ませる」
何だか藤原らしい返答だ。
見てみれば、黒のロングコートも高そうだし、マフラーも凄くさわり心地が良い。
素材とかよくわからないけど、考えて見ればあんな高級なマンションに一人で住んでいるんだからもしかしたら藤原ってお金持ちなんだろうか。