「まぁそう怒るな。でもだいぶ楽になった」
楽になった、と言われたら、すぐ良かったと思う自分があまりにも単純だ。
どうしたって私はこの人には勝てない。
いつだって心配だし、求められれば答えたいし、一人で立つこの人を少しでも休ませてあげたい。
ただの高校生だけど、できる事は全てしてあげたい。
私の顔を柔らかい笑みで見たかと思うと、今度は私の頭を撫でてきた。
私は何だか諦めた気分になって、撫でてくる人の胸元に背中を預ける。
きっとまた昔飼ってた犬を思いだして撫でているんだろう。
それでも撫でられるのは嬉しいしホッとする。
「クリスマスだね」
「あぁ」
「デートとかしないの?」
「お前達と違ってこっちは忙しいんだよ」
「ふーん。彼女になる人、大変だね」
今はこんなことしてるけど、藤原にとって私はそういう対象じゃ無いからできる事くらいわかってるし、彼女なんて存在に慣れない私には関係が無い訳で。
面白くないのでそう言ってみたけど、返答が返ってこない。
顔を見上げると何故か難しそうな表情をしている。
「まぁ・・・・・・適度に休みは取る」
「うん?まぁその方が良いんじゃない?」
そう言うと、上からため息が聞こえた。
「帰るか」
その言葉にやっと腕が離れて、私は膝から降りる。
考えて見たら私の足は全く地面に着いてなかった。
身長もあるんだろうけどもしかして藤原って足が長いんだろうか。
「私どうしたらいいの?」
「車で来てるから寮まで送る。
その前にクロークに荷物を預けているからそこに寄ってからな」
そういうと立ち上がり、歩き出した。
私はなんだかこの場所が名残惜しくて少し景色を眺めてから後に付いていく。
イブに二人だけでいた特別な場所だから。
藤原はホテルのクロークで何か受け取ると、手招きする。
ずっと後をついていくと、地下にある駐車場に着き、そこには以前乗った白い藤原の車があった。
また助手席のドアを開けてくれて、私は乗り込む。
考えて見たら、この席に婚約者も乗ったことがあるんだろう。
私が乗った回数なんかより遙かに多く。
私はそれが切なかった。
ホテルを出て、少し走ると高速に乗る。
走っていて違和感を感じた。
本来北に行くはずが、南に行ってないだろうか。
「ねぇ、この道って寮の方?」
「まぁ少し付き合え」
前を向いたままの藤原をきょとんと見た。
走っていると美しいレインボーブリッジを越え、ライトアップされた色とりどりの明かりを携えた観覧車や白く光る多くの建物が見えてきた。
「綺麗・・・・・・」
思わず呟く。
そうか、この夜景を見せたかったんだ。
私には思いがけないサプライズにただ嬉しかった。
車はそのまま地下のトンネルに入る。
こんなとこは通ったことが無くて、オレンジ色に光るトンネルがとても綺麗だ。
だけどだいぶ走っている気がする。
「どこに行くの?これから戻るの?」
「もう少ししたらわかる」
急にトンネルを抜けたと思ったら、突然大きな建物が正面に現れた。
ウィンカーを出してその建物に入るスロープを上がれば『海ほたるPA』という看板があり、その建物の中に入るとずらっと駐車場があった。
沢山の車が停まっていて空いているスペースなんて無いと思ったが、ちょうど出た車の場所に入ることが出来た。
「ほら、行くぞ」
降りてみると、思った以上に人で賑わっている。
ぽかんとして車の横に立っていたら、再度行くぞと声をかけられ、私は慌てて歩き出した藤原についていった。
エレベーターに乗り一番上につくと突然真っ黒な空が広がった。
屋上みたいな場所に出て、レストランとかが左右にずらりと並んでいる。
クリスマスイブのせいなのかカップルも多い。
そのまままっすぐ進むと、今度は目の前が一気に開けた。