それに好きな人にこんなにも求められて、嫌なはずもなく。

他の生徒には見せないこういう子供っぽいところを見せられれば、余計に甘やかしたいと思ってしまう。

私はほとんど真後ろにいて私の肩にある大きな子供の頭を、少し手を後ろにして撫でる。

髪の毛を固めているせいか、いつもよりさわり心地が硬い。

たったそんなことすらも新鮮で嬉しくなってしまう。

撫でていても藤原は身動きせずじっとしていて、なんだかそれがおかしくて少し笑みが浮かぶ。

さっきまで怒っていた自分が嘘のようだ。


「一人なの?葛木先生呼ぼうか?」


「呼ばなくて良い」


「私、重いんじゃない?」


「別に」


ずっと膝に乗ってるからさすがに重いと思ったけど、そう返されたら下ろしてとも言えない。


ふと前を見れば、明かりのともったビルが周囲を森のように囲んでいる。

クリスマスイブにまさか藤原とこんな風に過ごせるなんて夢にも思わなかった。

それも何故か藤原の膝の上でがっつりと捕まえられたままで。

考えて見たら好きな人の膝の上に座って密着しているはずなのに、この頃は私を抱き枕か何かと勘違いしているんじゃないかと思う事が増えて、いまいち甘い気分にはなれなかった。




ふいに、肩にあった藤原の頭が少し動いて、私の首筋に息がかかる。


「んっ」


突然漏れた自分の声に自分が驚いた。

自分でも聞いたことのない声に、何故か身体がカアッと熱くなって、思わず口を手で覆う。

どうしよう、なんか変だ。

私が訳も分からず混乱していたら、今度は突然耳元に息がかかりその息づかいまではっきりと聞こえた。


「ひゃ」


身体がびくり、として、身体全体に伝わる異様な熱に困惑する。

なんだろう、なんか怖い。逃げたい。


「ね、ねぇ、もう充電出来たんじゃない?」


声が震えてしまう。お願いだから早く解放して欲しい。

妙に身体がぞわぞわして、もそもそと身体を動かした。




「・・・・・・面白い」




「!!!」


耳元で低く囁かれた言葉に身体がびくん、と跳ねた。

何故か恥ずかしさが頭の中をぐるぐるして心臓がばくばくする。


今すぐにここから逃げ出したい。


やっと藤原の頭が私の身体から離れて、私は緊張の糸が切れたように脱力した。

けど、なんとなく視線を感じて、おどおどとすぐ側の視線の元をゆっくりと見上げる。

そこには何故か、藤原が意地の悪い笑みを浮かべていた。

反射的に逃げようとしたけど、腰がまだ捕まえられたままで立ち上がれない。

腰に回った手を両手でどかそうとした時、片手が私の頬に伸びたかと思うと、ぐに、と伸ばした。



「やっぱりよく伸びるなぁ」



そう言うと、へら、と藤原が笑った。


それにふつふつと怒りが湧いてくる。

完全にさっきから私で遊んでいたんだ。

妙に甘えて子供っぽいとこもあれば、こうやって意地悪く私をからかって遊びもする。

結局は大人というより子供なんだと思うけど、人の頬を伸ばす癖は本当に止めて欲しい。

私は拳を握ると、ひたすら胸元を叩いた。

あぁもう人が心配していたのに!