「仕方がないから僕は先に帰るよ。この我が儘な人の面倒みてあげて。

あ、先生一つ貸しね」


「何が貸しだ」


「ゆいちゃん、プレゼントありがとう」


こちらこそ、と返そうとした瞬間、私の頬に唇が触れ、すぐ側にある綺麗な顔がいたずらな笑みを浮かべてウィンクした。

私は突然の事で固まる。


「じゃぁまた連絡するね!メリークリスマス!」


すくっと立ち上がりそう言った加茂君に私は声も出せず、こくりと頷いた。

そして何故か藤原にドヤ顔をしたあと、手を振って去っていった。




私がぽかんと加茂君の立ち去る背中を見ていたら、加茂君が居なくなった隣りの席に藤原がどかりと座って、びっくりしてそちらを見る。


「えっと、大丈夫?」


藤原は思い切り足を開いて、そこに肘をつけて前屈みになった状態でこちらを見上げるようにしている。

髪型もオールバックで異様に目つきも悪いので、なんかヤのつく自由業の人みたいだ。


「何をヘラヘラと」


「え?」


「危機感が足りないって言っただろうが」


なんでそんな怖い顔で言われないといけないんだろう。

こっちは心配したのに何故かまた説教が始まった。

さっきまで加茂君と楽しい時間を過ごしていたのが台無しだ。

私はキッと隣りに居る藤原を睨んだ。


「また説教!?体調心配したのに!

加茂君も心配して先に帰ってくれたんだよ?!」


「俺はお前の心配を」


「もうしつこい!藤原なんて嫌い!」


頭に来てベンチから立とうとした瞬間、腰に手が回って後ろに引っ張られた。


「わ!」


転ぶと思ったら、何故か藤原の膝の上に座っていた。

がっちりと藤原の左手が私の腰に回り、何が起きているのかわからず呆然としていたら、ふいに私の肩に頭が乗せられた。



「悪かった。だから怒るな」



急にしおらしくなった声に、私の怒りのテンションが急降下する。


「・・・・・・やっぱり、調子悪いの?」


「疲れた」


「あぁ、もう・・・・・・」


こういう子供っぽいところを見せられると、きゅんとして弱い。





何故かあの夜の一件後、藤原は妙にくっついて来ることが増えた。

月曜日は今までソファーで一人で寝ていたのに、ある日手招きしたかと思うと、人の肩に頭を乗せて寝てしまったり、ソファーに座れと呼ばれたかと思うと人の膝を枕にして寝てしまった時はさすがに何が何だかわからず硬直した。

自分の膝ですーすー眠る藤原を前に身動きも取れず、葛木先生が入ってきてこちらを呆然として見た後、やはり口に手を当てて必死に笑いを堪えているのを見て、そんな事より助けて欲しいと泣きそうな気持ちになった。

最初はもしかして藤原が何か私に、と淡い期待を持ってしまったこともあったけど、そういえば私に密着すればするほど充電できる事を思いだし、ようは一回その楽さを経験して味を占めたのだろうという結論になった。

そうじゃないとこういう事をしだした意味が理解できない。

本当は理由を聞いてみたいけど、それでもう触れられなくなる方が嫌で結局聞けないまま。