「ストーーーップ!!!」



突然の大きな声に驚いて思わず目を開ける。

そこには加茂君の首根っこを掴んで仁王立ちしている藤原が居た。

髪型がいつもと違うオールバックに黒のロングコート姿で、一瞬誰かわからなかった。


「先生ジャマ」


「邪魔してんだよ」


コートの首元を掴まれたまま、座っている加茂君は真後ろで立っている藤原を見上げてそう言うと、藤原が何だか地面を這うような低い声で返した。


「先生は関係ないでショ?」


「ある」


「デートの邪魔するとか馬に蹴られたら良いのに」


「ほぉ、お前国語不得意だったのに成長したな」


目の前にはむっとした顔で見上げる加茂君に、据わった目で見下ろす藤原。

二人が異様にピリピリしていて、私は訳も分からずおろおろする。


「あの、二人とも」


「ゆいちゃんは黙ってて」「東雲は黙ってろ」


同時に返され私は面食らった。


小声で私には聞こえないけど、二人で顔を近づけて何か言いあっている。

こんなに二人が仲が悪いなんて知らなかった。

まぁあんな事があったからやっぱりしこりは残るんだろうけど。




「と言うことでお前は一人で帰れ」


「ヤダ、ゆいちゃんと帰る」


何でそんな流れになったのかさっぱりわからない。

だけど加茂君はそう返すと、にっこりと私を見た。


「ゆいちゃん、僕と帰るよね?」


「うん」


当然だと思ってそう返した。

だいたい一人で帰るなんて寂しくて嫌だ。

けどそれを聞いて藤原の眉間に思い切り皺が寄っている。

そういえば何で藤原はここにいるんだろう。

ここはホテルなんだからもしかして婚約者とデートしていたんじゃ無いだろうか。

そうか、ここだとお泊まりも出来るわけで。

凄く凹みつつ、答えが怖いけどつい聞いてしまった。


「ねぇ、何で藤原はここにいるの?

デート中なんじゃないの?」


「仕事だ」


無愛想に返された。

てっきりイブだしデートだと思っていたのに。

その答えに内心安堵しつつ、イライラしている藤原に困惑する。

休みの日に仕事で機嫌が悪いんだろうか。


「だったら早く家に帰って休んだ方が良いんじゃない?」


「そーだそーだ」


「黙れ」


私の言葉に加茂君が賛同を表すと、藤原が低い声でぶった切った。

だめだ、かなり機嫌が悪い。

もしかしたら体調が悪いのだろうか。


「もしかして体調良くないの?大丈夫?」


その言葉に藤原は私に軽く視線を向けると、少しため息をついた。


「あぁ、ちょっとな」


「ウソツケー」


「黙れ」


何だろう、この二人。

途惑っていたら隣りに座ってた加茂君がにっこりと笑う。