「お前、加茂とデートするんだって?それもイブに」
月曜日、珍しくすぐソファーで横にならないと思ったら、そんな事を藤原は言い出した。
「葛木先生がなんて言ったのか知らないけど、放って置いて」
「誠太郎は単にお前を心配しただけだよ」
「相手は加茂君だよ?特に心配することなんて無いよ」
私は机に勉強道具を出す。
「ほら、寝ないの?」
未だにソファに座ったまま、藤原はこちらを見ている。
「相手は男だぞ?」
「相手はクラスメイトです」
私は視線を無視して教科書を開く。
「・・・・・・お前は危機感が足りない」
ため息混じりに言われてカチンときた。
「加茂君凄くモテるんだよ?!
私なんて対象外だから問題ないの!」
もういい加減説教は止めて欲しい。
私は開いてた教科書を閉じ、帰る準備を始めた。
「元気そうだし今日は帰る」
「お、おい?!」
慌てるような声がするけど知るもんか。
私は荷物をまとめて振り返らず部屋を出た。
特に追いかけても来ないし大丈夫だろう。
もう頭に来ている方が大きくて藤原の事なんてどうでも良い。
なんでみんなしてあんな事をいうのか、私にはさっぱりわからなかった。
24日は休日で朝から加茂君と待ち合わせして都心に出かけた。
どこもかしこもクリスマスの飾り付けで、みんなうきうきしている感じが伝わり、私もワクワクする。
「ここだよー」
加茂君に連れられて来たのは都心にある高層の立派なホテルだった。
広いお洒落なエントランスには高級車から外人が降りてきて、ボーイさんが英語を話しながら丁寧に案内している。
入っていく人達は大人ばかり、それも何だかお金持ちの人ばかりに見える。
「あ、あの、ここなの?」
「ここのラウンジカフェの一部が特別仕様になるんだぁ」
「私、場違いだと思うんだけど・・・・・」
「え?そんなことないよ?可愛いよ?」
にっこりと加茂君は笑う。
考えてみたら、今日の加茂君のファッションは前回より少し大人っぽい感じで、薄いグレーのチェスターコート、中はちょっと変わった襟のシャツに濃い紫色のVラインのセーター、濃い紺の細身のジーンズでやはりお洒落で格好いい。
それに対し私の今日の服装は、明るいベージュのシンプルな膝上までのAラインコート、クリスマスだしと少し可愛いワンピースを着てきたけど、どれも安物だ。
「ここ高いんじゃない?
私そんなにお金持ってきてないんだけど」
「僕が払うから気にしないで」
「いや、気にするよ!」
思わず大きな声を出し慌てて周囲を見たら、道行く人がこちらを見ていた。
「とりあえず入ろう?目立っちゃうよ?」
そういうと加茂君は私の手を取り、なれたようにホテルに入った。
なんとホテルのロビーは1階ではなく、遙か上の階と知り、こんなとこに入ったことのない私は、思わずきょろきょろとしてしまう。
そんな私を見て加茂君が笑う。
「どうせ庶民ですよ」
「こういうのはね、男がエスコートするものだから、安心してきょろきょして」
綺麗な顔で微笑まれて思わず視線を背けると、他の大人のお客さん達がにこにことこちらを見ていて恥ずかしくなって俯いた。